オリンピックの歴史とミッション:クーベルタンの理念と現実のズレとは?

TOKYOオリンピックが2021年、コロナ禍の中で開催されました。

オリンピックほどの大きな催しの場合、莫大なヒト・モノ・カネが動きます。

ヒト・モノ・カネを動かす原動力は一体何なのでしょうか?

オリンピックにも創始期の歴史があり、振りかえると大会における明確なミッションが存在します。

初期の段階では、多くの人が創業者クーベルタンの理念に賛同したからこそ、オリンピックが開催できたのです。

今回はオリンピックの創始者クーベルタンの理念であった「オリンピズム」を考えてみたいと思います。

オリンピックの理念「オリンピズム」

クーベルタンのオリンピズムと背景ストーリー

まず、オリンピックのミッションというべき<br>「オリンピズム」(OLYMPISM)とは何なのでしょうか?

日本オリンピック委員会(JOC)のサイトによると

スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する

JOCサイト「クーベルタンとオリンピズム」より引用

ざっくり言うならば、スポーツを通じて世界をより平和な世界にすること

それがオリンピックの理念です。

後に「近代オリンピックの父」と言われるクーベルタンは、1863年にパリに生まれた貴族の三男坊でした。

当時のフランスの情勢を鑑みると、 普仏戦争(1870~71)の影響を受けて国内は停滞ムード一色。

「なんとかしなくては!」という想いが彼には あったのだろうと推察されます。

教育改革に活路を見出した彼は、イギリスに渡って、パブリックスクールを視察するわけですが、スポーツに打ち込む英国の青少年たちの姿に感銘を受けたと言われています。

イギリスといえば、クリケット、サッカー、ラグビー、テニスなどが有名です。

紳士的かつ熱心にスポーツを楽しむ文化が当時から根付いていたのでしょう。

スポーツ×教育改革というアイデアを思いついたクーベルタンは、さらに海外に人脈を広げ、見識を深めていきました。

海外の文化、特にアメリカなどの自由なカルチャーは彼に衝撃を与えたようです。

「フランスの教育改革のためにスポーツを」と考えていたクーベルタンの発想は徐々に「スポーツの国際大会を開催する」構想へと移り変わっていきます。

ちょうど1852年にギリシャのオリンピアで遺跡が発掘されたことから、「オリンピック」と名の付いたスポーツ競技会がヨーロッパ各地で実は開かれていました。

当時のオリンピックは国際大会ではありませんでしたが、クーベルタンは「古代オリンピックの近代における復活」を目指したのです。

1894年、パリで万国博覧会が開催されるということで、チャンスが訪れました。

クーベルタンはオリンピック復興計画を議題に挙げ、結果、満場一致で可決。

最初の大会は1896年に、古代オリンピックの故郷であるギリシャでそして古代の伝統に則り、世界の大都市で持ち回りにして4年ごとに開催しよう。そして運営のための組織として、国際オリンピック委員会(IOC)を作ろう。

そんな風に、話し合いを通じて制度が決まっていきました。

最初のIOC委員はたったの16人。そんな少人数から世界規模の大会は始まったのです。

クーベルタンのストーリーは彼単体のものではなく、時代の流れや協力者達とのストーリーでもあります。

もっと詳しく知りたい方は、下記にご紹介する本などで学んでみて下さいね!

オリンピックのロゴにこめられたメッセージ

オリンピックのロゴ、五輪マークはあまりに有名ですね。

オリンピックのシンボルである五輪ロゴマークもクーベルタンが考案しました。

彼はロゴのアイデアについて、次のように書き残しています。

青、黄、黒、緑、赤の色は、地色の白を加えると、世界の国旗の
ほとんどを描くことができるという理由で選んだ

JOCサイト「クーベルタンとオリンピズム」より引用

5大陸の色と5つの輪の結合を示していると言われていますが、どの色がどの大陸を表すのかは実は分かっていないそうです。

輪のマークは、古代オリンピックの開催地デルフォイに刻まれていた休戦協定を中に刻んだ五輪の紋章から着想を得たそうです。

もっともスポーツですから、勝者と敗者が必ず存在します。

理念は平和であっても、争いは必然として起こるわけです。

1908年にクーベルタンは対立し険悪だった参加選手達に次のような言葉を言っています。

オリンピックの理想は人間を作ること、つまり参加までの過程が大事であり、オリンピックに参加することは人と付き合うこと、すなわち世界平和の意味を含んでいる

JOCサイト「クーベルタンとオリンピズム」より引用

オリンピックの逸話として有名な話ですね。

1.3 オリンピズムに基づくバリューとビジョン

ちょうど1852年にギリシャのオリンピアで遺跡が発掘されたことから、「オリンピック」と名の付いたスポーツ競技会がヨーロッパ各地で実は開かれていました。

Excellence: This is about giving one’s best, on the field of play or in your personal and professional life. It is about trying your hardest to win, but its also about the joy of participating, achieving your personal goals, striving to be and to do your best in your daily lives and benefiting from the healthy combination of a strong body, mind and will.

Friendship: This encourages us to consider sport as a tool to help foster greater mutual understanding among individuals and people from all over the world. The Olympic Games inspire people to overcome political, economic, gender, racial or religious differences and forge friendships in spite of those differences.

Respect: This value incorporates respect for oneself, one’s body, for others, for the rules and regulations, for sport and the environment. Related to sport, respect stands for fair play and for the fight against doping and any other unethical behaviour.

IOCサイト「Olympism」より引用

ざっくりと日本語に直すと、オリンピズムおよびオリンピック活動ではバリューとして3つのことを大事にしていることがわかります。

  1. エクセレンス…プレーのみならず、日々の生活の中で、仕事の中で個々のベストを尽くし、目標を達成し、喜びを得ること
  2. フレンドシップ…スポーツを通じて相互理解を深め、違いを超えて、ヒトとの絆を築くこと。
  3. リスペクト…自分自身やその肉体を尊重し、他者を尊重し、決まり事を尊重し、スポーツとその環境を尊重すること。

平和の祭典であるミッションを土台にしていますので、バリューは比較的分かりやすいですね。

ただ、オリンピック全体のビジョンはやや見えづらいと言わざるを得ません。

オリンピズムの原則として、挙げられているのは次の6項目。

  1. Non-Discrimination (非差別)
  2. Sustainability.(持続可能性)
  3. Humanism. (ヒューマニズム)
  4. Universality.(普遍性)
  5. Solidarity.  (連帯)
  6. Alliance between sport, education and culture.(スポーツ・教育・文化の連携)

原則(Principle)ですから、未来に向けての価値観と言った方が近いですね。

実際、大会によって大会ビジョンが各国で制定されますし、オリンピック憲章もこまめに更新されるので、全体のビジョンがどうしても分かりにくくなっています。

TOKYO2020オリンピックの大会ビジョン(公式サイトより画像転載)© 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

上記の大会ビジョンは、東京2020オリンピック公式サイトに掲載されていたものです。

オリンピズムの原則には沿っていることが分かりますが「史上最もイノベーティブで世界にポジティブな改革を
もたらす大会」といわれても具体的なイメージが浮かばない人がほとんどです。

正直、ビジョンとしては非常にわかりにくいキャッチコピーだなという印象です。

横文字が多いので、余計に理解が難しくなっています。

東京2020オリンピックにとっての「イノベーティブ」とは何だったのか?

「ポジティブな改革」とは何なのか?何を目指していたのか?

すでに閉幕したオリンピックを思い出しても、どこまでビジョンが浸透していたのかは疑問です。

2 オリピズムと現実:理想と現実のギャップ

2.1 オリンピックに寄せられる理念への批判

東京2020オリンピックに限らず、オリンピックの開催には様々な批判が寄せられます。

クーベルタンの理念、オリンピズムから始まったオリンピック。

しかし規模が大きくなるにつれて、様々な問題が明るみになっていきました

理念批判を最初に始めたのは、民族主義と国家主義を軸とするファシスト達でした。

その流れはドイツのファシズム台頭へと続き、1916年のベルリン大会は中止、やがて冷戦へと時代が動いていきました。

また、ネオ・マルクス主義の人々からは次のようなオリンピック批判が寄せられました。

  • ナショナリズムを高揚させている
  • コマーシャリズムの対象となっている
  • 競争主義である
  • 男性優先である
  • 人種差別である
  • 暴力礼賛である
  • 名声を煽る
  • 技術の集中しすぎである
  • 視聴者を統合する
  • 政府の圧力を容認している

特にオリンピックと商業化の問題はずっと語られてきました。

次のような書籍を読むとより詳しく実態を知ることができるでしょう。

2.2 オリンピックに寄せられる現実問題への批判

最初の理念、オリンピズムがヒト・モノ・カネを動かしている原動力であることは確かなのですが、国際大会である以上、各国の国策の影響を大きく受けます。

そして、開催国を決める際にも各国の利権がからんできます。

オリンピックを招致し、それを題目として都市の再開発を行えば行政の予算が動きます。

その分削られる事が多いのは、福祉などの分野の予算です。

また開発計画の内容次第では、環境破壊のリスクも懸念されるでしょう。

上記のような点に対して、市民活動の批判が集中しました。

全ての企画や催しにはポジティブな面とネガティブな面の両面があります。

大切なのは、ネガティブな面を上回るだけのメリットがあるということ。

残念ながら、オリンピックの開催については、IOC委員への賄賂が発覚する汚職問題が1984年ロサンゼルス大会以降、何度も起こっており、ネガティブ面を強く感じさせます。

オリンピック放映権は高騰しており、もはや大都市以外はオリンピックの招致は不可能でしょう。

つまり、オリンピズムの理念と大会のミッションとは現状ズレてしまっていると言えるのではないでしょうか。

ミッションはそれ自体はただの言葉です。言動との一貫性がなければ、何の意味もありません。

ミッションと言動が一致しないのであれば、むしろマイナスイメージにつながるでしょう。

3 まとめ

ミッションは、単に言葉を決めればいいというものではありません。

ミッションは、組織全体に発信してメンバーに浸透させ、実践の軸にしなければ意味がありません。

せっかく軸となる言葉を決めたのであれば、ぜひアクションへと活かしていきたいものですね。