マナビラボ

第43回

2018.02.07

インスタ映えを狙え!? ♯高校生 ♯島おこし

前編

9月、名古屋国際中学校・高等学校で学校設定科目のSIA特論(SIA=Sustainability In Action !)を担当されている黒宮祥男先生の授業におじゃました。5年生(高校2年生)の選択科目のSIA特論では、1学期に生徒各自が企業の社会貢献活動について調べた。2学期に入り、生徒たちは「ある島の社会課題を踏まえつつ、自分たちだったらこの島をどうやって活性化させるか」というテーマについてグループで考え、それを実践するための企画書を作成してきたという。今回の授業は、この企画書のプレゼンの回にあたる。

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授業前、今回の授業について黒宮先生に少し伺ってみた。

-今回の授業のねらいについて教えて下さい。

黒宮先生:今回の授業は、他者評価、プレゼンのやり方、とりあえず、しゃべるといったところです。社会課題から論理的に考えていく能力が大切なのですが、今の子たちは課題発見があまり得意ではないようです。課題を発見して、その解決方法を見つけて実行して振り返って、また改善すること…それがたぶん大人になって必要なのですが、学校の授業ではそれが本当に少ない。SIA特論は学校設定科目なので、なるべくそれを、それのみを重視し、その手法を体験してもらっています。

 

授業前の黒宮先生のお話の中で興味深かったのは、生徒たちには、架空の島として考えさせているが、実は…面積も形も人口も社会課題も同じ島が実在している、ということ。

-なぜ、生徒たちには架空の島として提示するのですか?

黒宮先生:現実の島だと、彼らは賢いのでインターネットで調べてしまい、それを正解だと考えてしまうのです。本来、生徒の発想というのはすごい自由なのですが、おじさんの発想に触れてしまうとおじさん発想になってしまう…。ひょっとしたら生徒たちの中からもっといい発想が出るかもしれない…そしたら、その島に行って、「こういうのが出ました!」とプレゼンしたりすることもできるかもしれない…でも、佐久島と言ってしまったら、絶対生徒は調べてしまうでしょう。アートで実際に島おこしをしたことを知ると、そこからそれに取り憑かれてしまい、新しいアイディアは出なくなってしまうのです。すぐ調べてすぐ答えが出るのは、インターネットのメリットではあるのですが、学習においてはそれが最大のデメリットにもなります。“生徒ならでは”の発想が潰されてしまう。そういうのがあるので架空の島にしているのです。実際、佐久島を発展させてきた島民の方がいるので、その島民の方が、こうやって歩んで、こういうふうに解決していったんだよ、というのを今日の授業の最後か次の時間に紹介したいと考えています。

 

チャイムが鳴り、黒宮先生がクラス全体に一声、「今日はプレゼンやってもらいます」。いよいよ、授業開始だ。教室の中には企画書を貼るためのボードがグループの数分用意してあり、生徒たちはグループごとに着席している。

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まず、黒宮先生がプレゼンの進め方について説明する。進め方のポイントは次の通り。第一に、プレゼン担当者は自分たちのグループの企画書を貼ったボードの横に立ち、先生がヨーイドンと言ったらプレゼンを始めること。第二に、プレゼン担当者以外のグループの他の人は時計回りに次から次へと他のグループのボードを回って、プレゼンを聞き、質問すること。その際、一つのプレゼンにつき付箋を3枚使い、それぞれの付箋に自分の名前を書いたうえで、1枚目の付箋には良かった点、2枚目の付箋にはプロジェクト実施の可能性、3枚目の付箋にはプレゼンへの質問内容を書いて、プレゼンの企画書に貼ってから次のグループに移動すること。付箋の使い方について丁寧に説明したあとで、黒宮先生は次のように加えた。「なぜそれをやるかというと、このあと、企画書を全部回収します。君たちが貼った付箋ごと先生が評価します。付箋も評価材料になるので、プレゼンを見ていた人たちは、プレゼンをやった人に対して質問とか疑問とかを考えながら聞いてあげてください。プレゼンをやる人は5分間しゃべり続けてください。しゃべる内容がなくて沈黙したらそのまま聞いている人たちはプレッシャーを与え続けてください」。

プレゼンが始まる前に黒宮先生からプレゼン担当者に対してプレゼンのテクニックが伝授された。「プレゼンをやる人は紙の横に立ってください。たとえば先生の場合だったら右利きなので、必ずこっちです。指が指しやすい方」。プレゼン担当者の立ち位置が決まったところで、グループの他のメンバーたちは、他のグループのボードのところへ移動する。今度は黒宮先生から聞いている側のテクニックも伝授された。「5分間はプレゼンしまくり。そのあとで質問です。聞いている方は、反応してあげてね。あぁ面白かったな、と思ったらニコッと笑ったり、ふんふんと言ったりしないとプレゼンをしている人は非常に大変なので。では、最初の5分間はじめます。これが4連発です。ヨーイスタート!」。

一斉に、プレゼン担当者たちが話し出した。「ゴミをきれいにする活動をまず…SNSで募集します。そのあとにこの島ならではのイベントをします。テントとか魚釣りとか潮干狩りとか、都会暮らしの人は体験できないようなこと。テントに宿泊するので、ホテルがなくても、お金がなくても滞在できる。次に、ゆるキャラを作って、もっと人を呼ぶ。サカちゃんの銅像を4つくらい作って、スタンプラリースポットにして、全部回ったら景品を…。あと、お金が貯まったら、島の人たちが集まれる…。あと小学校とか、病院とか…」。

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5分後、黒宮先生が「はい、終了。今から2分間の質問タイム。総ツッコミしてあげてください」と全体に声をかける。すると、プレゼンを聞いていた側から「テント代って?」「お金取るの?」「ゴミはどうやってきれいにするの?」…。立て続けに質問されたプレゼン担当者が「ボランティアの人が…」と答えるやいなや「呼ぶの?」とまた質問が返ってくる。「SNSで…」と答えると、また「お金はこっちから出すの?」と質問が続く。「ボランティアだから。ポイントあげるの。あとタコとアサリの漁ができる」…プレゼン担当者もグループの威信をかけて答えるのに必死だ。「旅館あるならテントって?」質問はまだ続く。なかなか伝わらないもどかしさを抱えながら「あー違う…それはイベントだから」とプレゼン担当者が答える。そんなやりとりの中、先生の「はい、付箋を企画書に貼ってください。書けたら時計回りに移動してください」という声で、一回目のプレゼンは終了。クラスの中に「えー時間足りないんだけど…どう言おう…」等々、プレゼン担当者たちの声が漏れる。先生はこうした声を聞き逃さない。「今プレゼンやった人は、回を重ねればうまくなっていくと思うけど、つまっちゃった人、5分で足りなかった人、いたと思います。5分間でしっかりまとまるよう改善してみてください」。

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二回目のプレゼンが始まった。「私たちのグループでは、今ボランティアをしている人たちが多いので、ボランティアの人たちとゴミ拾いをして、再利用できるものは市場で売って、そのお金はボランティアをしてくれた人たちのために使って…。(島の絵を指して)こっちにはこっちの特徴があるので…。あとは、この街にはコンビニとかないので、市場をそのまま残して…。いいとこはそのまま残しつつ…。あと、今の時代は、ほんとに絶対もうインスタとかすごいみんな使ってるから、インスタ映えできるように、海とか古い町並みを写真に綺麗に写せるように、自然とか。撮影ポイントっていうのを作って、撮影ポイントを3つ作って、ハッシュタグとかをつけてもらって、そのハッシュタグを見てきた人には釣り無料券とか潮干狩り無料券をあげて…。インスタを目玉にして、このプロジェクトは、SNSとかで広めてもらって話題を作って、観光客を集めるっていう…。観光客が増えたら資源も増えるけど、10代から60代から2名ずつ代表を選んで集会を開いて、島についての問題について解決していく…10代から60代っていうのにも意味があって、それぞれ見方も違うし…」。

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終了の合図のあと、先生から「プレゼンの人、ちょっと助言ね。なるべく聞いている人の顔を見て。人によっては企画書ばっかり見ている。あとは、手振り、身振り。この島を売り込まないといけないから」というアドバイスがあった。

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三回目、四回目となると、プレゼン担当者も聞いている側も、それぞれ慣れてきたようだ。「僕たちのグループでは、島の砂浜のゴミを減らし、島に住んでいる人たちの労働環境を増やし、島の産業の衰退を直すことを考えました。まず、島に入るためには500円の入島料が必要です。…海辺にあるゴミを…あ、ゴメンなさい…」。プレゼン担当者の言葉がつまったのを見て、聞いている側から「いいよ、そのまま続けてもらって」という咄嗟のアシスト。調子を取り戻したプレゼン担当者が「その次に、島を一周するようなゴミ拾いのプロジェクトをします」…と続けようとすると、聞いている側から不意に「ゴミ拾いさせられるの?」という質問が飛んできた。すると、聞いている側から聞いている側に対して「質問はあとだから」とルール違反を制止する声が上がり、プレゼンが再開された。「ゴミを集めて、この3つのキャラクターのぬいぐるみがもらえます。ノルマは、男性8キロ、女性5キロ、家族の場合は8キロで、この3つのぬいぐるみのどれかがもらえます。このノルマを達成すると、新鮮なタコやアサリ、畑で採れた新鮮な野菜がごはんとして食べられます。ホームページを作り、SNSで呼びかけます。効果として、海が綺麗になり、観光客が増えます。浜辺が綺麗になることで、綺麗な魚が増え、タコやアサリなど海産物の値段が上がります。と同時に、ぬいぐるみを作る島の人たちの収入が増えました」。プレゼンがひと段落すると、聞いている側から「無料で配るのに?」という質問が飛んできた。「この500円で…」とプレゼン担当者が答えかけたところで、公式の質問時間が始まった。聞いていた側から早速「ぬいぐるみを作って利益を得るって言ってたけど、ゴミ拾いをしたら無料であげるって?」と改めて質問された。プレゼン担当者が「500円です」と答えるやいなや「なんで500円なの?」「500円でぬいぐるみと食事あげるって明らかにマイナスじゃない?」という質問で返された。なかには「何年計画ですか?予算は100万ですよね?10年ですか?20年ですか?」という鋭い質問もあった。追い詰められたプレゼン担当者が「100年計画です」と答えると「えー?!100年計画って…」。プレゼンを聞いていた側は一斉に2枚目の実施可能性の付箋に数字を記入し始めた。

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「プレゼンをやった人は、企画書を剥がして、自分のグループに持って帰ってください。実現率どうですか?どんな質問きてますか?」黒宮先生の指示を受け、生徒たちは元のグループに戻り、自分たちの企画書に貼られたたくさんの付箋を見ながら額を寄せ合っている。「80パーとかあるよ」「65パー…」「言われたのは500円でって」「話し合いの時、ホテルは書かないって言ったのに」…。

グループの様子を見ながら黒宮先生が「今、ちょうど振り返ってもらったんですけれど、これをリフレクションと言います。実は、この島、愛知県の三河湾にある佐久島です」。スクリーンに佐久島の写真と情報が映し出された。生徒の中から「あー!」という声が上がった。授業の最後に黒宮先生は佐久島について付け加えた。「(企画書で考えた架空の島は、佐久島と)島の大きさ、人口同じです。アートで島おこししました。漫画の舞台にもなりました。ゴミ拾いしました。キャラクターできます。こういう島も実際にあります。君たちも何か困ったことがあったら、今みたいなアイディアやプレゼン力で社会課題を解決していけたらいいかな、と思います。グループのみんなに拍手!」

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授業終了後、黒宮先生にお話を伺った。(後編へ続く)

 

08057488名古屋国際中学校・高等学校の歴史は、1935(昭和10)年に創立した名古屋鉄道学校にまで遡ることができる。2003(平成15)年に名古屋国際中学校として開校して以来「フロンティア・スピリット(開拓者精神)」の涵養という理念のもと、国際教育に力を入れてきた。SGHアソシエイト校である他、国際バカロレア・ディプロマプログラム認定校として、特色あるカリキュラムを実施している。

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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