マナビラボ

第42回

2017.12.13

授業に必須、3つのC

後編

東京都立高島高等学校で政治・経済の授業を担当されている大畑方人先生。大畑先生の授業では毎回『オーハタの政経』と名付けられた先生お手製のプリントが配布される。今回お邪魔させていただいた「地域社会を築く」という単元における4回連続の授業でも『オーハタの政経』プリントは生徒たちの学びを導く重要な役割を果たしている。『オーハタの政経』プリント、さらにいえば、大畑先生の授業そのものに、生徒たちが釘付けになるのは何故だろう?思い切って、その秘密を伺ってみた。

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– 今回の4回シリーズの授業のねらいについて教えて下さい。

大畑先生:今回の地域社会の課題を考える授業についていうと、生徒に身に付けさせたい力は3つあります。一つは、地域の課題を発見する力です。生徒の7割くらいは自転車で通ってくる地元っ子で、朝から晩まで部活動をやっています。自分もそうですが、普段自分が生活している居住空間の中で「問題を探そう」と思わない限り「問題」には気づけないものです。課題を探る、探求する力をまず身に付けさせたいです。二つ目は、課題をもとに解決策を考える力です。三つ目は、課題、解決策を人に説明する、言葉の力です。

さらに言うと、考えて発表したことをもとに、行動に移してほしいと思っています。たとえば、それは、板橋の区議会選挙であるとか、町内会への参加であるとか、最終的には行動に移せること。学校という場を離れても年の違う人たちと意見を交わしながら、より良い社会の形成者になってほしい、といった目標が最終的にはあります。

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– 授業の中で一貫して生徒にとっての身近さ・具体的であることに注目しているのは何故ですか?

大畑先生:政治や社会問題を考えさせるうえで、一番の問題は生徒の無関心です。だから、生徒たちの無関心のバリアをどうやって打ち破るか、これが自分の政治・経済の授業のテーマです。関心のあまりない生徒たちにチョーク&トークの授業をしても、テスト前に覚えてその30分後には忘れられてしまう、これではまずいと思いました。生徒たちの実態を踏まえて、彼らの関心をいかに惹きつけるか。無関心のバリアを取っ払うために、どんなふうに授業ができるか。そう考えたときに、自分の中で“3Cがある授業”を心がけることにしています。

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– 3つのC、教えて下さい。

大畑先生:一つ目のCは、キャッチーです。無関心のバリアをバーンと取り払うためにはある程度のインパクトが必要です。その手法の一つとして参加型授業の手法があると思い、勉強してきました。また、それぞれの回の授業でICTを使ったり、楽しませるためにゲームやクイズ感覚でできるものを取り入れたりもしています。

二つ目のCが、身近さという意味でのカジュアルです。身近な問題であり、日常性です。その部分については、地域社会はもちろん身近なのですが、4月の授業では、まず、学校の問題を取り扱います。学校は生徒たちにとって一番身近な世界であり、先生という権力をもっている人がいて、校則というルールがあり、ホームルームや部活動といった合意形成をしていく場があり、学校も政治的な現象が起きている場だよね、ということから始めます。

たとえば、「自由とは何か」という難しい問いを投げかけるのではなく、みんなで靴を脱いで机の上に立ってみて、見慣れた教室でも別の角度からは違って見えてくること、この楽しさを知ってもらいます。そのうえで、普段見ている政治や経済といった一見するとわかりにくいことを、違うところから見てみたら、政治や経済の面白い側面が見えてくるんじゃない?と生徒たちに投げかけてみるのです。男女で結婚できる年齢が違うのはなぜ?自分が死ぬまでにしたいことって何?大人って何だろう?…そのうえで、政治って何だろう?

学校の問題から政治の本質、たとえば、権力とか合意形成を図っていくことについて考えさせる。そのうえで、身近な地域社会の課題から都や国、グローバル社会へと、だんだん自分から広げていくというイメージをもって授業を計画しています。

三つ目のCは、クールです。政治について語れる、社会問題について関心があることをカッコイイと思ってほしいです。どうしても生徒たちは、部活ができる・スポーツができる、という側面からカッコイイということを考えがちですから。政治や社会について語れる大人や大学生に実際に来てもらって授業をすすめています。だから、教育実習生に関わってもらうことも良い機会だと考えています。

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– どんなところにやりがいを感じていますか?

大畑先生:[前任校の]私立の学校に比べれば、今は自分に任されている部分が多いです。授業の自由度が高いことは、個人的には嬉しいですが、学校や都立の教育全体のことを考えると、もちろん、足並みをそろえた方がよいところもあります。ただ、どの学校でもどの先生に教わっても同じになると、教師はいらなくなってしまう…。昔は、個性のある教師がどの学校にもいて、その時代は一人一人の教師の授業の裁量が大きかったのだと思います。今は授業以外の雑務が多く、授業準備に十分な時間を割くことができないのが現実ですが。

– 授業に関してはどうでしょう?特に、学校という身近なところから政治を考えるときの難しさはありませんか?

大畑先生:まず、日本の今の中学校や高校のルールは社会から見てもおかしい、学校独自のルールが多いのではないかな、と思います。たとえば、外見的なことで言えば、本当に全員同じ白いスニーカーを履かなくてはいけないのでしょうか。教師は二言目には社会に出ればルールがあるから、と言いますが、その社会が変わってきているのだと思います。

だから、高校三年生くらいになって、中学校・高校で植えつけられてきた価値観を解体させることにはやりがいを感じます。生徒たちには自分たちが正しいと思っているルールや常識だと思っていたことを疑うことの重要さを意識的に伝えるようにしています。

-とはいえ、生徒たちには、まずは常識、価値観の形成が必要なのではないですか?学校における秩序(校則)との対立になってしまうのでは…。

大畑先生:その点について、こういう話をするときには、ちゃんと手順を踏んで提案しなければ変わらない、ということを伝えるようにしています。

生徒たちにしてみれば、生徒総会などで、生徒たち自身の提案によって何かが変わったという達成感を得ることができていないのだと思います。もし学校のルールや校則を変えたいのであれば、ただ不平不満を言うだけではなく、正しい手順を踏んで行動に移し、自分たちのことは自分たちで決められるようになろう、と投げかけるようにしています。

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– 社会とのつながり、将来の生き方とのつながりを考えた授業が重要と言われますが…。

大畑先生:主権者教育という言葉がここ数年クローズアップされていますが、あらゆる教育活動が主権者教育なのだと思います。すべての教師が市民性を意識して、授業をする必要性があるのだと思います。その点、自分としては主権者教育をそんなに意識しているわけではないのですが、主権者教育にも広い意味と狭い意味とがあるのだと思います。狭い意味で捉えると、選挙教育のようになってしまいますが、広い意味で捉えれば、市民性や他人事を自分事にしていくような意識をもたせるための教育であり…であれば、学校教育すべてがそうなのだと思います。

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– 今後の課題について教えて下さい。

大畑先生:「自主性」と「主体性」の違いに注目しています。「自主性」はやることが決まっていて、ある程度目標設定ができていて、それに向かって生徒が積極的に参加するというものです。でも、目指しているのは「主体性」の方で、やるべきこと、課題そのものを生徒が自分で決めるというものです。これが本当の理想的なアクティブ・ラーニングのかたちなのではないかな、と思っています。一人の授業の中だけではできない、とても難しいものだとは思いますが。

たとえば、今回の授業では、生徒たちによる課題発見を意識していますが、調べ方や話し合いの仕方など、教師の側からお膳立てされたものです。そうしたことも、最終的には生徒に委ねたいと考えています。…が、どうしたらよいのか、わからない。

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– 大畑先生は、授業を通して、生徒たちに「自分たちが正しいと思っているルールや常識だと思っていたことを疑うことの重要さ」を伝えたい、と話してくださいました。なるほど、綿密に練り上げ作成された『オーハタの政経』プリントは、生徒たちをそうした深い学びへと導いていく道標として欠かせないものなのですね。しかし、大畑先生が最終的に目指しているのは『オーハタの政経』プリントが必要なくなるような授業のようです。「自主性」から「主体性」へ。生徒たちと一緒に作る「主体性」の授業とはどのようなものになるのでしょう。大畑先生は、これからはじまる悪戦苦闘を予感しながらも、ビジョンを語ってくださいました。その姿に、とてもワクワクしました。

本日はありがとうございました。

 

高島高校学校写真 (1)

1973年に設置された東京都立高島高等学校。「自ら学ぶ力を育てる学校」「生徒一人ひとりの希望進路を実現する学校」「文化・スポーツ教育を通して健全な心身と人間力を育成する学校」「規範意識の醸成と社会貢献活動を通して、地域から信頼される学校」の4つを「目指す学校像」として掲げている。都立学校の中でも、部活動が盛んな学校であり、学習・進路指導にも力を入れている。

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    田中 智輝

  • 撮影

    村松 灯

  • 撮影

    町支 大祐

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