マナビラボ

第38回

2017.10.18

イメージの共有で気付くアイデアの広がり方

前編

美術やデザインを専門的に学ぶ高等学校は、少なからずある。そんな中、美術やデザインを学ぶ生徒が課外活動で教師とともに制作した映画が、国際映画祭にノミネートされるほど高評価を得た学校が、宮城県仙台市にある東北生活文化大学高等学校である。今回は、その東北生活文化大学高等学校の美術・デザイン科、倉本郁哉先生の授業におじゃまして、生徒の学びの様子を取材した。

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うかがったのは、版画の授業。といっても、版画制作そのものの授業ではない。版画では詩集から好きな詩を選び、そこからわいてくるイメージを自由に表現する。今回は、表現したいイメージを生み出すためのアイデアワークの授業である。個人作業が中心となる制作の授業とは少し異なり、生徒が与えられたテーマについてそれぞれのイメージを表現し、新しいアイデアをつくり出す。担当するのは、美術・デザイン科教諭の倉本郁哉先生だ。「美術作品の制作は個人作業になりがちです。なので、意識してグループでイメージを共有することで、発想を転換するようにします」と、倉本先生は言う。

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授業は2マ連続して行われた。まず初めの時間ではワークシートを用いて、芸術作品を観て図像から言葉を生み出す活動を行い、グループで一つの図像からいくつもの物語を作り出す。次の時間では、小説のあらすじから、本にするとしたらどのような装画がイメージできるか、というワークシートを用いて、一つの物語から生まれるいくつものイメージを共有し、アイデアをふくらませる内容だ。どちらも、村田沙耶香の小説『コンビニ人間』(文藝春秋、2016年)を教材としている。

授業が始まると、10分程度でこれまでの流れを振り返る。本のイメージもデザインするという装画は、単純に絵画の仕事にとどまらず、多様な仕事に開かれていくことを伝える。

導入が終わると、6人程度のグループに分かれて、図像から生み出されたそれぞれの生徒の物語を、「テーマ、タイトル、登場人物」の内容で紹介し合う。倉本先生は、物語の雰囲気も含めてイメージを共有するように促す。普段は図像を制作することになれている生徒たちも、物語を表現することは新鮮な様子。それでも、自分の考えたストーリーをそれほど抵抗もなくなめらかに発表していく。聞いている生徒も、わからないところなどは「それはどういうこと?」や、「もう少し詳しく」など、自然に質問している。「入学時から自分自身の作品をみんなに説明する講評会はよく行っています」と倉本先生が言うように、人前で自分の考えをスムースに言語化し合う。

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15分程グループ内でそれぞれの物語を共有すると、倉本先生が「グループの代表を決めて。そろそろまとめに入るんだよ」と声をかける。各グループでは、よいと思う生徒を代表に決めつつ、グループ内での意見をまとめる。それから5分程して、クラス全体にプレゼンテーションを行う。

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全体のプレゼンテーションでは、選ばれた生徒と紹介する生徒の2名が登壇し、「テーマ、タイトル、登場人物」に加えて、「あらすじ」と「選んだ理由」も発表する。質問の時間では、「この絵を観て『ピエロ”PierroT”』というタイトルが出てきた理由はなんですか?」といった、図像を言葉にするにあたっての質問や、物語の設定についての質問などが相次ぐ。それぞれの生徒が、自分では思いつかなかった物語におどろきつつも皆真剣だ。物語の発表は半分程度の班にとどめ、授業の最後に自由に鑑賞する時間を設ける。

各々が興味を惹かれた物語を読み、それを書いた生徒に質問して、図像から抱いた自分のイメージと物語との違いに気付いていく。倉本先生の、「いろんなアイデアを共有していくことで起こる発想の転換を意識して」という声かけによって、同時に、図像から生み出される物語の多様性と表現の可能性に考えをめぐらしているようだ。

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10分の休憩をはさんで続く2コマ目では、先ほどとは逆に、物語のあらすじからイメージをふくらませ、図像のアイデアをつくり出す。授業開始後の導入では、あらためて今日の目的が「イメージを拡張していく」ことであることを確認する。さらに、「イメージの拡張」をヒントにしながら来週までの課題として版画の原画を完成させることを伝える。最終的には版画でイメージを表現するのがこの単元の目的。イメージワークとしてカフカの小説『変身』についてのさまざまな装画の展開を紹介しながら、一つの物語から図像が展開する具体例を見せつつイメージと物語のつながりを簡単に説明する。

10分程度かけて本時の導入を行うと、先生が先ほどと同様にグループでの作品共有と全体のプレゼンテーションでの発表方法を指示。前時では、物語を紹介することに新鮮な様子であった生徒も、講評会の経験もあって活発に作品への発表と質疑を行っている。倉本先生は、「制作の授業は具体的なものを観察して描くという作業に偏りがちです」というが、同じ教材から生まれたそれぞれの生徒の作品を解釈することで、イメージが広がっているように見える。

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10分程でグループワークを終え、全体のプレゼンテーションに入る。発表される作品について周囲の生徒と解釈や見え方を話し合う生徒もいるが、多くは集中して見入っている。さすがに絵画で表現することを専門的に学んでいる生徒ばかり。「目隠しをして描きました」など表現の幅も広い。中には、作品の説明をダンスで表現する生徒もいる。

前時よりも長く全体のプレゼンテーションをとり、まとめに入る。今までの「具体的なものを観察して描く」ということに加えて、イメージを言葉に、言葉をイメージに、という経験と、実際の作品を共有することでアイデアを広げていくための発想の転換の重要性を、先生があらためて意識させる。

日々作品による表現に取り組みながら、その表現のもととなるアイデアを共有する。そしてまた、作品制作にとりくむというサイクルが、生徒の発想の転換を促していくのだ。(後編に続く)

 

東北生活文化大学高等学校の歴史は、1900年に創設された東北法律学校、その3年後に創設された東北女子職業学校にまで遡ることができる。戦後の学制改革により、1948年に三島学園女子高等学校となり、2003年からは共学制の東北生活文化大学高等学校と校名を改称した。建学の精神である「励み・謹み・慈み」は、今日においても受け継がれている。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    松尾 駿

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