マナビラボ

第1回

2017.07.05

「アクティブ・ラーニング」の波紋はフィンランドにも?!

2014年11月20日の諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」の中で「アクティブ・ラーニング」という言葉が使われて以来、全国の学校に波紋が広がっています。マナビラボでは、この波紋を分析することで少しでも先生方の役に立つ情報を発信できるよう、全国高校調査などを実施させていただいてきました。

しかし、ふと海外に目を向けてみると、同じような波紋が他の国々でも起きていた(起きている)ことがわかります。海外での波紋や議論を見つめてみることが、さらに客観的に、そして俯瞰的に現在の状況を捉えることにつながれば幸いです。

 

まず今回は、OECDが実施する「生徒の学習到達度調査(PISA)」で高い評価を得ているフィンランドで起こった波紋について、ご紹介します。

 

今回ご紹介する文献:

Niemi, Hannele. (2002). Active Learning: a cultural change needed in teacher education and schools., Teaching and Teacher Education 18 (2002) 763-780.

 

フィンランドにあるヘルシンキ大学のニーミ教授は、フィンランドにアクティブ・ラーニングの波紋が広がり始めた1990年代後半に、以下のような調査を実施しました。

 

【A】フィンランド国内の3大学で1995年に修士号を取得した332名の教師(小学校から高校まで)を対象としたアンケート調査(回答率は61%)

【B】フィンランド国内の3大学に勤める120名の教師教育者(教員養成課程を担当したり、教職科目を教える大学教員)を対象としたアンケート調査(解答率は53%)

【C】11名の教師(【A】の調査に回答してくれた教師の中から、学校の立地や担当学年、教師の性別が多様になるように抽出した)へのインタビュー調査

【D】80名強の児童生徒(7歳から19歳まで)への集団インタビュー調査

【E】68コマ分の授業観察(【C】と【D】の調査に協力してくれた小学校・中学校・高校にて)

 

これらの多角的な調査を通して、様々な課題が浮かび上がってきたのですが、その中には、マナビラボの全国高校調査で明らかになった現在の日本の状況とも重なる部分も多くあります。

例えば、【C】の教師へのインタビュー調査を質的に分析したところ、教師が「アクティブ・ラーニングの阻害要因」だと感じている事柄は、いかの6つにカテゴライズできたと言います。

 

1.カリキュラム内容が多すぎて授業時間が不足していること

2.各学級の人数が多すぎること

3.学習環境や教材が十分に整っていないこと

4.児童生徒のメタ認知能力が不十分であること

5.同僚教師がネガティブな態度をとること

6.保護者が昔ながらの教育を学校に期待していること

 

まず、アクティブ・ラーニングを促そうとするばかりに授業の進行が遅れてしまった場合に、カリキュラムを網羅できなくなるリスクが高いことを危惧する声が、インタビューを受けた11名の教師の全員から聞かれたと言います(1)。また、学級の人数について(2)は、小学校の30人学級でも難しさを感じる教師が多く、特に高校では一学級に36名以上の生徒がいることが多いため、教室の広さの問題も生じていることが報告されています。さらに、児童生徒の自立的な学習を促すために、児童生徒が自ら学習を進められるような教材(とりわけPCソフト)を望む声が多く聞かれました(3)。インタビュー時点では、そうした教材が足りないため、教師が教材づくりから行わねばならず、業務負担が大幅に増えていたと言います。

また、児童生徒のメタ認知能力が不十分であること(4)に関しては、むしろ【D】の児童生徒へのインタビューの方でより色濃く指摘されたと言います。ニーミ教授は、「メタ認知能力」を大まかに、現状を捉える力と現状を修正していく力の2つで定義したうえで、児童生徒は教師以上に自分たちの自ら学習の舵取りをする力が足りないと感じている、ということを記しています。さらに、児童生徒はアクティブ・ラーニングを促すためによく取り入れられるグループ・ワークに対して懐疑的であることも、インタビューを通して判明しました。コミュニケーションや発表が苦手だったり、理解が遅かったりする児童生徒がいると、「他の児童生徒はその子をグループに入れたくないと思う」ことがあり、学級内の人間関係に影響を及ぼすこと、さらには、グループ・ワークの内容が安直すぎたり、本質的ではなかったりすることが多いことを、児童生徒は指摘しています。ニーミ教授のインタビューの中で、児童生徒たちは「ワークショップは楽しくなくてもいい」と明確に発言したそうです。それよりも意味があってやり甲斐のあるものにしてほしい、というのが児童生徒の意見だったと言います。

 

こうした課題を乗り越えるための方策としてニーミ教授が目をつけたのが、教師教育(教員養成)です。

教師になりたての若手教師に対するアンケート調査で教員養成について尋ねたところ、教員養成段階でアクティブ・ラーニングを促される機会が少なすぎたと感じている教師が多い一方で、それが促されたと感じた場合には満足度がとても高くなることがわかりました。

 

さらに、教員養成段階でアクティブ・ラーニングを促されたと感じた場面を頻度ごとに分析すると、

(あ)「課題に集中して取り組んだ」場面

(い)「自分で目標を設定して学習に取り組んだ」場面

(う)「学習成果を自己評価した」場面

以上の3つが最も高い頻度(平均して月に1回以上週に1回以下)で経験されていたことがわかりました。

 

(い)や(う)は、児童生徒が課題を感じていた「メタ認知能力」に直結する活動であると捉えることができます。こうした活動を通してメタ認知能力の発達を促される経験を多く積んだ学生が、卒業後に教師となって各地の学校で働き始めることで、児童生徒に対してもメタ認知能力を高める支援ができるようになることが、本調査から期待されます。学校でのアクティブ・ラーニング推進と合わせて、大学での教員養成段階でもアクティブ・ラーニングを促す仕掛けを多く取り入れていかなければなりません。

ニーミ教授は、この研究の「主なメッセージ」として、「学校におけるアクティブ・ラーニングと教師教育におけるアクティブ・ラーニングは多重な文脈で相互に関係している」ということを強調します。どちらか一方の現象として切り離してみることはできないし、さらに言えば、どこかにいる一人のアクターや一つの機関だけの問題として語ることもできない、と言います。

 

約20年前にフィンランドの教育現場に広がったアクティブ・ラーニングの波紋。

そして、それを受けて15年前にニーミ教授から発信されたこの提言。

今の日本では、これらをどのように受け止めたらよいでしょうか?

今後の議論の参考になれば幸いです。

 

最後に、ニーミ教授がインタビューした教師の発言と児童生徒の発言の中で、特にはっと思わされるものを一つずつご紹介します。

 

「教師は、『私(うち)の生徒』『あなた(よそ)の生徒』というイメージを取り壊して、学級ごとの境界線を消していかないといけない」

—教師へのインタビューより

 

「教師がキレないことが大事」(アクティブ・ラーニングが促されると、児童生徒は多くの質問を抱き、教室内もうるさくなりがち。もしそれを教師が受け入れられず、不機嫌になってしまっては、うまくいかない)

—児童生徒へのインタビューより

 

 

  • 取材

    山辺 恵理子

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