マナビラボ

第35回

2017.06.28

スポーツの面白さで平等・対等な関係を紡ぎだす

誰もが夢中になれる体育の授業(後編)

頭と身体をフルに使って学びを深める授業を実践されている、東播工業高等学校体育科の殿垣哲也先生。誰もが自然と夢中になれる授業は、どのように生み出されているのだろうか。授業づくりにかける思いを伺った。

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どの子も参加しやすい授業づくり

  フラッグフットボールを教材にした授業を長く実践されていると伺いましたが、このスポーツを選ばれたのはなぜなのでしょうか。

殿垣先生:私自身アメリカンフットボールが好きだったということと、フラッグフットボールというスポーツが持っている特質からです。

まず、フラッグフットボールの一番の特質は、子ども達の技術差があまり出ないということ。サッカーやバスケットボールなど他のスポーツでは、ドリブルとかパスとかシュートとか、技術が伴うものが結構多いですよね。体育の苦手な子からしたら、そういう部分でつまずくことが多い。それに対して、フラッグフットボールは基本的にボールを手で持って走るというものなので、技術差が出にくいんです。

 

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  なるほど、他のスポーツと比べて、体育の得意な子と苦手な子でスタートの時点から分かれてしまうということが起こりにくいんですね。

殿垣先生:そうなんです。それは、二つ目と三つ目の特質にもつながってきます。

二つ目は、アメリカ型スポーツで、分業制が進んでいるという点。ディフェンスもオフェンスも、一人ひとりが役割を持っているということが大きいですね。

三つ目は、ハドル(※試合中に行われる作戦づくり:取材者による補足)に現れているように、毎回自分たちの意図したセットプレーからゲームが始められる点です。サッカーとかバスケだとどうしてもフリーボールだし、ましてや体育の授業でやるとなると、自分たちの意図したプレーってほとんどできないですよね。その中で、運動能力が高い子や経験者はヒーローになれるけれど、苦手な子は臨機応変に対応できずにどんどんお客さんになってしまいます。

つまり、フラッグフットボールは、体育の苦手な子も主人公になりやすいし、どの子も参加しやすいスポーツなんですよね。それが、この教材の良いところだと考えています。

 

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自治的能力を育てる教科としての「体育」

  事前に頂いた資料には、フラッグフットボールの実践を始められた当時、体育と生活課題との結びつきが授業づくりの課題であったと書いていらっしゃいました。体育以外の教科や、より広く生徒の生活一般とのつながりに関して、どのような思いを持っていらっしゃいますか。

殿垣先生:体育において、スポーツそのものを教えるということはやはり重要です。でも、それに加えて、スポーツを自分たちで変えていったり、自分たちで企画や運営をしたりすることもすごく重要だと思うんです。それは、自分の生活やクラスでの生活のなかで問題を解決していく能力、集団として話し合って課題を解決していく能力につながっている。グループ学習を通してそういう能力をつけさせることも、体育の一つの教科内容なのではないでしょうか。体育という教科は、スポーツのルールが理解できたり、技術が向上したり、体力がついたりというだけではなくて、自治的能力や問題解決能力が培われる教科だと僕は考えています。

 

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  「自治」ということがキーワードとして出ましたが、先生が考えていらっしゃる自治的な集団というのは具体的にどのような集団なのでしょうか。

殿垣先生:「異質協同」ということが重要になってくると思います。異質な者どうし、自分の要求と相手の要求を足し算引き算して、折り合いをつけていく。同質的な集団を作って活動させる体育の授業って結構多いですよね。例えば、跳び箱だったら、8段跳べる子、5段跳べる子、3段跳べる子に分けて、それぞれで目当て学習をするというような。跳べる子はより跳べるようになるし、跳べない子は跳べない子なりに楽しめばいい、という考え方ですよね。でも、それで子どもたちが伸びるのかと言ったら、必ずしもそうではないと思うんです。運動能力は低いけれど戦術を考えたりプレーを分析するのが得意な子がいたり、考えることは苦手だけど運動能力がすごく高い子がいたり、そんななかで揉まれながらお互いを認め合うというのが、やはり大切なのではないでしょうか。僕にとって自治的能力というのは、異質な者どうしが対等、平等な状態でひとつの集団を作っていくというイメージですね。

 

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一元的な価値観からの脱却 真に「平等」であるということ

  今のお話を伺って今回拝見した授業を改めて振り返ってみると、出来る・出来ないではなくて、フラッグフットボールという競技そのものの面白さを生かしながら、自然と「異質な者どうしが対等、平等な状態」になれるような仕掛けがなされていたのだと気づかされます。「考えながら動く、動きながら考える」という面白さや、作戦通りに決まったときの気持ちよさは、一人では味わえない。しかも、運動能力の高い子も低い子も、同じように楽しめてのめり込んでいけますよね。

殿垣先生:そうですね。出来るか出来ないかという一元的な価値観ではなくて、同じ土俵で競い合えるということが大切だと思います。今回のフラッグフットボールだったら、もちろん運動能力の差はあるけれど、みんなが同じ土俵で話し合いができているし、同じ土俵でプレー出来ていると思っています。

 

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殿垣先生:真に「同じ土俵で競い合える」ということ、上手い下手の一元的な価値観を乗り越えた授業というのは、能力の低い子も楽しめるというだけではなくて、同時に能力の高い子も楽しめるということでもあります。例えば、チーム全員がボールに触ってから相手チームに返さないといけないというルールや、全員シュートしたらボーナス点がもらえるというルールでプレーさせる体育の授業ってありますよね。でもそれ、プレーヤーはそのスポーツを心から楽しめるでしょうか。そういうルールだと、最後はお情けシュートやお情けパスみたいになってきて、それが「平等」だったり「同じ土俵に立っている」と言えるのかというと、それは少し違うのではないか。やはり、みんなが楽しめるスポーツを創るっていうのが前提ですよね。どのような意味においても、一部の者が楽しんでいて、一部の者が楽しくないと思っているのは違うんだと思います。

 

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認識を整理すると、身体の動きも変わる

  一元的ではない価値判断で見るといったとき、やはり成績のつけ方が気になります。

殿垣先生:実技的な要素が加味される種目ももちろんありますが、フラッグフットボールに関しては、単元の途中と終わりの2回の筆記試験だけで評価します。この前単元途中の試験をやったばかりですが、みんなよくできていて満点ばかりでした。

単元の途中に試験をするのは、今回が初めてです。長期の休みを挟んで少し間が空いたので、ここまでの認識を一度きちんと評価しておこうと思ってのことだったのですが、結果としてすごく良かったと思います。

 

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殿垣先生:認識を整理するという点では、2日前に作戦会議の時間を取れたことも大きかったですね。それも、きっかけは雨が降って実技ができなかったからだったんですが、結果として雨が降って良かったです。生徒たちも、振り返りシートに「今までチームできちんと話し合う機会がなかったから、作戦会議ができて良かった」って、何人も書いているんですよ。今日の授業は、実技の時間としては2ヶ月ぶりでしたけど、作戦会議で認識を整理したおかげで、それを感じさせない動きをしていたと思います。今回のフラッグフットボールの実践がうまくいっているのは、実技だけではなくて、認識を問うたり、話し合いをしたりする場をしっかり取っているのが大きいと思っています。

 

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   今後の授業づくりについてお聞かせください。

殿垣先生:マナビラボのホームページにもありますけど、アクティブラーニングって新しいものでは全くなくて、むしろ「すでにみんなやっているんじゃないかな」と感じています。アクティブラーニングという言葉だけが一人歩きをして、「活動あって学びなし」という状態に陥らないかという危惧もあります。そうではなくて、やはり本質的な部分に目を向けて、目的・方法・内容をしっかり吟味していく授業づくりをしていきたいですね。

 

HI8A4678兵庫県立東播工業高校は1964年に創立され、機械科、電気科、建築科、土木科の4つの学科が設けられ、「地域社会に貢献できる専門的職業人の育成」を目標に教育活動が行われている。

 

  • 取材

    村松 灯

  • 撮影

    山辺 恵理子

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