マナビラボ

第34回

2017.06.21

頭も身体もフル回転!動きの「質」を問い直す

誰もが夢中になれる体育の授業(前編)

取材に伺ったのは、兵庫県立東播工業高等学校・殿垣哲也先生の体育の時間。高校1年生の選択授業だ。この日の教材は、アメリカンフットボールが起源の「フラッグフットボール」。アメリカンフットボールと同様に、タッチダウンを目指し、セットプレーを繰り返して得点を競うが、タックルの代わりにプレーヤーの両腰に付けたフラッグを取るところから、フラッグフットボールという名称になった。アメリカンフットボールよりも安全に、少人数でも楽しめるように開発され、日本では1990年代以降本格的に普及してきたスポーツである。(日本フラッグフットボール協会HP参照:https://www.japanflag.org

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殿垣先生は、フラッグフットボールを教材にした実践を25年間、ほぼ毎年続けられてきた。このスポーツの魅力のひとつは、作戦を練り上げ、それを実行する面白さにあると殿垣先生は言う。フラッグフットボールでは、毎回自分たちの意図したセットプレーからゲームがスタートでき、プレーとプレーの間にはハドルと呼ばれる作戦会議の時間も設けられている。「一つの作戦だけで相手を騙すというのもあるし、三回の連続した作戦のなかで、その組み立てによって敵を欺くというのもできるんです」。技術の巧拙だけでなく、いつどんな作戦を採用するかという判断が、ゲームの面白さを左右するのである。

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今日の授業では、各グループで前時に行われた作戦会議で出されたプランを検証するという。まずは準備運動をした後、グループやペアでボールのパス練習が始まった。時間をかけて打ち合わせをしてから練習に入るペアや、まずはやってみて修正していくペアなど、取り組み方はさまざまだ。しかし、「近い、もうちょっと離れよう」「もう少し遅めにスタートしないと」など、よりよいパスに向けた声かけが、グラウンドのあちこちから聞こえていた。

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運動場の真ん中に集合すると、前時の確認と本時の目標について全体で共有する時間が取られる。殿垣先生は、作戦やメンバー個人の振り返りがバインディングされた各チームのファイルを見ながら、前回の授業を振り返りつつ、今日のポイントが作戦の「検証」にあることを確認していく。「他のクラスでは、『今日立てた作戦を使って、失敗したら修正していきたい』っていうコメントも出とったで。作戦は、相手のポジショニングやその時のゲームの状況、自分たちの技術によって変わってくる。その作戦がただ成功した、失敗したってだけやなくて、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかを考えよう。作戦自体の問題ではなくて、個人の技術的なミスやのに、『もうこの作戦はだめや』ってなったらもったいないやろ」。

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今日の授業のイメージがつかめたところで、オフェンスとディフェンス、それぞれの作戦をチームで練習する時間が15分間設けられた。あるチームでは、最初はファイルを見て作戦を確認しながら、「誰かこのポジションやりたい人?」と立候補を募るかたちでポジションを決めようとしていたが、「いや、ここは投げるのが上手い人、ここは走るのが得意な人がええな」「じゃあ、ここは俺やるわ」と、次第に作戦全体の趣旨とそれぞれの得意分野とを考慮してのポジション決めに変わっていっていた。殿垣先生は各チームの練習を見ながら、「『セット・レディー・ゴー』の掛け声はクォーターバックのタイミングで言った方がええで」「こっちに向かって走りながら、ボールは反対方向に投げるって結構大変やねんぞ。同じ方向にいる人に投げるパターンもあるから、両方練習しとき」など、それぞれの状況に合わせて助言していく。

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そして、ついに作戦を検証するための練習試合へ。試合を始めるにあたり、殿垣先生が生徒に指示したことは次の二つだった。一つは、「試合は4対4でやるけれど、プレーしていない人は何もしないんじゃなくて、コーチ役として状況を判断して、試合が中断したらすぐに次はこのプランっていう指示を出そう。これは重要な役割やぞ」ということ、もう一つは、「今日の授業は作戦を試してみることが目的だ。だから、今日はアドリブを控えよう」ということである。試合を進めていくにつれて、一つ目の指示と二つ目の指示は密接につながっていることがわかってくる。というのも、作戦の重要性が上がれば上がるほど、コーチ役の重要性もそれに比例して増していくからだ。運動能力が高い「花形」のプレーヤー達に試合を任せて、休憩しているような生徒はひとりもいない。むしろ、作戦の成否やその原因を判断し、次のプレーに即座に生かすという目的が明確であるために、コーチ役の生徒たちはプレーをより客観的に見て、プレーヤーをリードする役割を担うようになるようだ。「今のすごくいいフェイント!」「今の動きは予定と違うやん、何でなん?」「パスはボールを投げるんじゃなく、腹に押し付けるようにして渡さないと」「次は1番の作戦でいこう」など、プレーへのフィードバックと次の作戦への展開に向けた声かけが自然となされていた。

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殿垣先生が本時の授業において、ただ〈上手な〉プレーではなく、よく〈考えられた〉プレーを大切に考えられていることが象徴的に現れた場面があった。あるチームの一人のプレーヤーがラインまで一気に駆け上がり、自陣からの大きなパスを受けて、得点したときだった。プレーヤー個人の高い運動能力で相手チームを圧倒したプレーで、メンバーは大喜びである。そこで殿垣先生が一言、「でもそれ、作戦にありますか?」。授業後、先生にお話を伺うと、「タッチダウンは決まったけど、あれは全員が走ってばーっと投げただけで、ワンマンプレーヤーが活躍しているプレーではあっても、よく考えられたプレーではないですよね」とのこと。もちろん、いきなり「考えなさい」と言っても、何をどのように考えていいのかまったく分からない。考えるためには、そのための材料がなければならないからだ。だからこそ、本時までに時間をかけて、1対1から2対2、3対3、そして試合形式と同じ4対4と、それぞれの場合のオフェンスとディフェンスについて、各ポジションの役割や動き、作戦立案のポイントを順を追って学習してきたのだという。そしてその集大成が、まさに今日検証しようとしている各グループの作戦なのだ。

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考えたことを、実際にやってみる。実際にやってみたことを、また分析して、次のプレーにつなげる。そうした頭と身体の往還関係が活発化しているのは、「作戦の検証」という本時の授業の目的が明確にされているからこそだ。殿垣先生は途中で、「作戦がよく分かってなかったら、作戦会議の時間、ちょっとくらい長くしてもいいぞ」と指示を出した。生徒たちもそれに応えるように、頭を使って、基本となる作戦を選び、それぞれにふさわしいポジションや役割を決め、一つずつ動きを確認していく。最初は全部暗記しているからと作戦ファイルを置いたままにしていたチームも、気づくとファイルの周りに集まって皆で内容を見返していた。また、あるチームは、一度目のセットプレーでライン近くまでボールを進めながらタッチダウンは奪えなかったのだが、「惜しかったな」という声に対して「いや、一度目はあそこまで上げられたら十分や」と返していた。殿垣先生がおっしゃっていた、「三回の連続した作戦のなかで、その組み立てによって敵を欺く」というフラッグフットボールの面白さが実感されているようだ。

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授業の最後10分間は、振り返りの時間。「今日実際に作戦を試してみて、何に気づいたのか、次回以降どうしたらいいのかということを書いて、次回みんなで共有するぞ」。じっくり思考を深めるために、本時の振り返りでは周りと話さずに自分の考えを書くよう、指示が出された。一人ひとりが真剣な表情でペンを走らせるなか、静かな時間が流れる。印象的だったのは、多くの生徒が振り返りシートを提出し終わる頃には、自然とチームのメンバーが集まって振り返りを共有していたことだ。一人でじっくり考えた後には、自分の考えを他者に伝えてみたくなるらしい。

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こうして、50分の授業はあっという間に終了。頭と身体をフルに使った授業は、作戦を成功させる面白さに夢中になるなかで、それぞれが役割をもって関係をとり結び、自然と学びを深める仕掛けにあふれているようだ。授業後、殿垣先生にお話を伺った。(後編に続く)

 

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兵庫県立東播工業高校は1964年に創立され、機械科、電気科、建築科、土木科の4つの学科が設けられ、「地域社会に貢献できる専門的職業人の育成」を目標に教育活動が行われている。

 

  • 取材

    村松 灯

  • 撮影

    山辺 恵理子

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