マナビラボ

第31回 マナビをひらく!授業のひみつ

2017.03.29

未来を切り拓く力を育む

リーダーシップを学ぶ家庭科の授業【後編】

生徒の主体性を引き出すリーダーシップ
家庭科でリーダーシップを学ぶ授業

都立駒場高等学校の木村裕美先生の家庭科の授業では、チーム活動を通して「誰もが発揮できるリーダーシップ」を育むリーダーシップ教育を取り入れている。「家庭科はアクティブ・ラーニングに向いている」と話す木村先生にお話をうかがった。

前任校でのある思いが出発点

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―木村先生が、家庭科の授業にリーダーシップ教育を取り入れようと思われたのはなぜですか?

 木村先生:きっかけは前任校にいた時にさかのぼります。担当学年から学校改革を行い、進学実績は飛躍的に上がりましたが、もっと生徒のためにできたことがあったはずだという思いが残りました。特に生徒が自分からやりたいと思って学びの世界に入ってもらうにはどうすればいいんだろう」と考えるようになりました。
 また、教育の世界でアクティブ・ラーニングが注目されるようになり、その内容を知るにつれ、「これは今まで家庭科の授業でやってきたことばかりだ」と感じていたこともあります。家庭科という教科は調理や被服といったイメージが強いかもしれませんが、実はキャリア教育やシチズンシップ教育なども含み、学校での学びと社会を結び付けて考えられる視点と、主体的に行動できる力を育てる教科でもあります。また、よりよく生きていく上で必要な力を身に付けることができる教科として、家庭科はもっとその存在価値を高めていけるはずだという思いもありました。

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―もっと生徒のためにできることがあるという思いと、家庭科という教科の可能性をより高められると感じていたことが、出発点だったわけですね。

木村先生:はい。最初は、夏季休業中を活用して家庭科と総合的な学習の時間とのコラボレーション企画として社会人や大学生をお招きした授業を行いました。家庭科の授業と総合的な学習の時間の授業を連動させることで生徒の主体性を引き出したかったのですが、なかなか思う様にはいきませんでした。生徒たちの主体的な行動を引き出すにはどうすればいいのかと悩んでいた時に、立教大学経営学部のビジネスリーダーシッププログラム(BLP)のことを知り、授業見学に行きました。そこで相手に言いにくい内容もお互い臆すことなく堂々と話し合う学生たちの姿を見て「高校を卒業して数年でこんなにも成長するのか」と驚きました。そこでいろいろと話を聞き、これは高校でも授業に導入できるのではないかと感じたのです。リーダーシップというとトップダウン型のリーダーシップを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ここで扱うリーダーシップは権限や役職に関係なく誰もが発揮できるリーダーシップのことを指しています。このリーダーシップは特別な才能を必要としない誰もが訓練によって獲得できるスキルです。また、リーダーシップは行動しないと発揮することができないので、「行動する」ということを練習できるのではないかと考えました。まずは、授業で相手やチームのために「行動する」ことを学習し、ある程度できるようになったら、授業を生徒に委ねることで自分から行動しなければならない状況を作り出し、生徒の主体的な行動を引き出していくのです。また、高校生も、自分の強みを活かしたリーダーシップをできるようになることで、学校生活や家庭生活をよりよくしていくことができます。こうした行動へのアプローチというのは、高校の部活動や文化祭などの特別活動を通して行われていると思いますが、授業で教えてもいいのではないかと考えました。
 また、駒場高校ならではの課題もありました。都立高校の中でも上位校である駒場高校には、中学校時代にリーダーを経験している生徒が多くいます。そのため、入学後に中学校ではリーダーだったのに、高校ではみんながすごいので、リーダーになりたくてもなれない」と悩む生徒がいるのです。そうした生徒たちに立教大学のビジネスリーダーシッププログラムが掲げている「権限がなくても誰もが発揮できるリーダーシップ」という考え方を学び、自分の良さを生かした形でクラスや部活動に貢献していくことで自己肯定感が向上していくのではないかと考えました。

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―リーダーシップ教育をどのようにして家庭科に取り入れようとお考えになったのですか?

木村先生:最初に考えたのは、リーダーシップの最小3要素「目標共有」「率先垂範」「同僚支援」の考え方を家庭科の授業内に取り入れることでした。例えば調理実習では皿洗いや床掃除などの作業を黙々とやっている生徒がいますが、その生徒に「率先垂範して皿洗いをして、チームに貢献できているね」と声掛けすることでその行動を認めてあげることができます。そうなると、その生徒は「やってよかった」「次もがんばろう」という行動することへの動機付けがされていきます。それを重ねていくと少しずつ自分から行動できるようになっていく。私はその部分を導入できたらと思ったのです。
このことは、将来、社会に出たり、家庭を持ったりしたときも役立つと思うのです。家事労働に対して夫婦が互いに「家族のためにやってくれてありがとう」と声掛けすることができるようになれば、きっと円満なパートナーシップが築けると思いますしね。

生徒同士が教え合う授業

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―1年間をかけて家庭科の授業の中でリーダーシップ教育を行うとのことですが、具体的にはどのような授業デザインなのですか?

木村先生:まず、4月の第1回目の授業は「自分の未来設計」から入ります。続く第2回目は「自立度を高めよう」ということで、自分の自立度を知ってもらいます。1回目、2回目で未来の自分と今の自分について考えてもらった後、第3回目の授業で、「マシュマロチャレンジ」などのワークを通し、チームビルディングについて学びます。学期の初めはクラス替え直後ということもあり、クラス内の人間関係づくりという側面もあります。その後は、家庭科の単元に従い、青年期の課題、人口問題や少子化の問題などに触れ、どんな結婚をしたいかを考えたり、家族について様々な角度から考えたり、といったことを、クラスメイトとの話し合いを通じて学びます。
そして5月末になって、リーダーシップについての授業を2時間行います。この授業では「チーム活動で発揮するリーダーシップ」について考えを深め、誰もが発揮できるリーダーシップ、権限がなくても発揮できるリーダ―シップについて理解し、リーダーシップが生活の様々な場面で活かせることを知ってもらうことを目的としています。
それを踏まえて、通常の授業内でも、「2人ペアになり1分間で授業の内容をまとめて相手に伝えてみよう」など、わかったことや自分の考えをわかりやすく相手に伝える練習をし、それを4人、8人と増やしていくような試みを取り入れてはふりかえりをさせるなど、リーダーシップを意識させるような働きかけを繰り返していきます。
10月には初めての調理実習があるのですが、レシピと材料を用意し、その要点を解説する10分間のビデオを見せた後は、「リーダーシップを発揮して時間内に作業を終わらせることがミッションです」と要点だけを伝えて、あとはすべて生徒たちに任せます。すると、生徒たちは互いに教えあいながら、きちんと時間内に調理を終えることができるようになっていきます。

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―調理実習は実践的にリーダーシップを学べるグループワーク、といった位置づけなんですね。

木村先生:はい。調理実習というのはリーダーシップを学ぶのに適していると思いますね。その場でわかりやすく結果が出てしまう一方で、少し焦げても「まあいいよ、美味しいよ」とみんなで楽しみながら食べられるので「失敗しても大丈夫」ということにも気づけます。また、いつもはあまり目立たない生徒が意外な才能を発揮することもあります。あと、全員が関わらないと終わらないようなギリギリの時間に設定するので、互いに協力しあい、全員が何かの役割をするようになります。以前は、口うるさくつききりで教えていたのですが、今は生徒に授業をゆだね、私は見守る形となり、自分の指導方法も大きく変わりました。

―その後はどのような授業になりますか?

木村先生:10月、11月には一斉授業の講義型で栄養素について学んでいきます。リーダーシップ教育をやっているというと、グループワークばかりかと思われがちですが、一斉授業の講義型できっちり教える授業を多くやっています。先ずは体系化された知識をしっかり理解することが重要です。ただ、並行して先ほどご覧いただいた「食品を比較するミッション」のグループワークを進めていきますので、講義型で学んだ内容と調べた内容が生徒の中でつながることで理解を深めていくことができます。また、栄養素だけではなく、食品添加物についても自分たちで調べることで、自身の消費行動を考えたり、企業のこと、社会のことも学んだりしてほしいという狙いもあります。
 各班、とても凝った発表資料を製作し、発表も上手にできていますが、実は授業では発表資料製作時間は2時間しか取っていません。そのため、生徒たちは朝や放課後に時間をつくってチーム内で協力しあいながら完成させています。なお、授業では、生徒同士で発表の評価を行い、相互フィードバックがすぐにできるようにしています。
 年明けからは、「保育」について学ぶのですが、ここからは、授業を生徒に委ね、生徒が先生役をやります。各班に教科書のページを割り振り、図書館で関連書籍を150冊ほどピックアップしてもらい、一班12分ずつの授業をつくってもらって、発表することを通して教え合えるように授業をデザインしています。各班の発表が授業になる、というわけです。発表形式は自由。黒板を使ってもいいし、演劇でもいいし、穴埋めプリントをつくってもいい。「みんなが理解できるようになればいい」と伝え、テストも生徒たちの授業の中から出すようにします。
これは「保育」の分野だからできる、というところがあります。「保育」という単元は生徒が調べれば調べるほど興味を持ちやすい単元なのですが、子ども側からの視点で考えるだけではなく、大人側の視点からも考えさせることが必要です。子ども時代の成長を自分のこれまでと重ね合わせることで親の気持ちを理解することから始まり、子どもを取り巻く環境、子育て支援の仕組み、子どもの守るための法律などを理解することを通して、人間関係や社会の在り方を俯瞰できる力を身に付けていってほしいのです。

リーダーシップを発揮することで未来を変えていってほしい

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―リーダーシップを学ぶことで、生徒たちはどのように変わりますか?

木村先生:高校生というのはとても吸収が早いので、「リーダーシップ」「リーダーシップ」と声をかけ続けると、10、11月ごろには「今日、リーダーシップ発揮する?」という話をするようになってきます。最初に取り掛かりやすいのは「率先垂範」その次が「同僚支援」ですが。「目標共有」については、「目標を共有すればグループワークはチームワークになるよ」と伝えていると、後半には「なにが目標なのか」をきちんと共有するところから始められるようになります。
先日、ある生徒が「先生、LINEのグループはグループだけどチームじゃない。部活はチームだよね」と言ってきました。駒場高校は保健体育科もあるので、「このリーダーシップは、部活でやっているよ!」と気づく生徒も多いようです。「リーダーシップ」を学ぶことで、部活や特別活動で意識せずにやっていたことが、「リーダーシップ」という名前がつくことによって、意識化できるようになり、より再現性が高まる、というところかと思います。
グループワークの様子も大きく変わります。最初の頃は、予定調和的なグループワークです。一見、うまくいっているようですが、実はどのグループもどのクラスも変わりばえがしません。それが後半になると、それぞれの個性が出てくるというか、際立った行動が増えていきます。一見、関わっていないように見える生徒が、ここぞというところでクリエイティビティを発揮したりして、予定調和が崩れていきます。全員がなんらかの形で参加するようになっていくのは、チームの一員としてリーダーシップを発揮することが楽しいと分かってくるからではないかと思います。

―リーダーシップを敢えて家庭科で教える意味というのは、どこにあるのでしょうか。

木村先生:家庭科というのは、伝統文化の継承と、その知識を最先端科学と融合させ、生活の中でどう活かしていくのかということを実践的に学ぶ教科であり、他の教科での学びを生活と結びつけることができる教科でもあります。また、学校生活や学校生活以外で学んだスキルや行動も全て、自分の人生をよりよくすることに繋げられるものであり、自分の未来とつながっているという視点を持たせることができる教科であると思っています。リーダーシップを学ぶことが目的なのではなく、リーダーシップを学ぶことで、新しい経験を獲得するための「行動」を起こしやすくなり、そこから、よりよく生きることにつなげていってほしい、というのが一番の願いです。

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―生徒たちにはどうなってほしいと思われますか?

木村先生:ありたい未来の自分に近づける力を持ってほしい、と思っていますね。私自身、教師としてもっと成長したいという思いでいろいろなことにチャレンジしていくうちに、目の前の扉が開き、その扉をくぐり更にチャレンジしていくと、またぱっと新しい扉が開いて世界が広がり、どんどん楽しくなっていく…ということを経験してきました。ですので、少し勇気を出して「行動」を起こすことで、扉が開き、少しずつ未来が変わっていく、そんな経験をぜひ生徒たちにもしてほしいと思っています。誰の前にも扉はあって、それは「行動」しなければ開かない。だからこそ、「行動」を引き出すリーダーシップの力をアクティブな学びを通して身につけてほしい。自分から「行動」を起こしていけば、人生を変えることもできるし、自分の一歩で社会や、世界だって変えられるかもしれない、そんな希望を持って高校を卒業していってほしい、と思っています。

>>前編はこちら

(取材・文章:井上佐保子)

 

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東京都立駒場高等学校は、東京都目黒区に所在する都立の高等学校。前身である東京府立第三高等女学校の創立から110年を超える伝統を持つ。普通科と保健体育科を設置し、その特色を活かした「21世紀を拓くリーダーを育てるハイレベルな文武両道」を推し進めている。

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