マナビラボ

第2回

2015.12.16

これからの社会をつくるために
−知識と発信のバランス−

千葉県柏市の柏日体高等学校(以下、柏日体高校)は、学校法人日本体育大学設置の私立高等学校である。日本体育大学への進学も少なくはないが、「スポーツの盛んな進学校」として、スポーツに加えて学力の向上にも積極的に取り組んでいる。

そうした取り組みの一環として、一般入試による大学進学を目的としたアドバンストコースを設置し、受験学力だけではなく今後の社会に対応した力の育成を目指している。2015年現在、アドバンストコース長を務めるのは、着任5年目の国語科、福田吉高先生だ。
福田先生は、「座学の授業に加えて、アウトプットなどこれから要求される能力をつけさせたい」と言う。そのために、従来2年次に実施されていた修学旅行を、ハワイでの語学研修として再編した。コースの柱のうちの一つだ。ハワイでは、現地大学での講義を受講、ハワイの歴史・自然環境についての学習を行うなど、英語でのコミュニケーション能力向上を目的としている。
ハワイ語学研修では特に、最終日にはハワイでの現地の教員等を対象としたプレゼンテーションを生徒が英語で実施し、英語でアウトプットする経験を重視している。これからの社会でつけなければいけない能力の一つとしての英語に触れさせる機会に語学研修を位置づけているのだ。
語学研修の目的を、英語能力だけにとどめるつもりはない。福田先生は国語科の教員である。国語という教科の醍醐味について、「評論なら現代思想、古典なら昔の思想−文化について理解できること」だという。「国語を学ぶことは文化を学ぶこと。そこに至るために、漢字や文法事項など様々な要素をバランスよく総合的に教えていくことを心がけています」。こうした意識から、英語科の教員とも協力しながら語学研修を題材として国語の授業に活かしている。

柏日体高等学校の授業風景その1

 

柏日体高校では、全教室に無線LANとディスプレイを設置し、全生徒にiPadを持たせるなど、ICT教育の環境整備にも積極的だ。福田先生は、こうした環境を利用しながら国語を通して生徒に今後の社会で必要な能力を身につけてほしいと考えている。「時代は変わっても、外国の人との言語を使っての交流、ICTを利用した情報利用、自然科学・人文科学の知識は必要になります。特に、現時点で必要となる外国の人との交流、言語と情報利用については生徒に地盤を作ってほしい」と話す。

英語、ICT教育を取り入れた国語の授業を展開するために、今年度では、一学期にはディベートを、二学期はハワイ語学研修を題材としたプレゼンテーションを中心としたカリキュラムを導入している。生徒は9月に入ってからプレゼンテーションのテーマを考え、数度の中間発表を繰り返しながら11月には日本語での発表を完成させる。そこから英語でのプレゼンテーションの準備に入り、12月の本番の発表を迎える。

取材で訪問した2015年9月29日は、プレゼンテーションの練習と中間発表を行っていた。1クラス25人、教室にはプロジェクタが用意されている。プレゼンテーションの内容について、生徒は事前にワークシート形式の準備資料を作成している。この授業では、事前の準備資料に基づきiPadを使って作成したプレゼンテーション用のスライドを用いて、実際にグループのメンバーに対して発表練習を行いながら相互評価することが目的である。

授業が始まると、今日の内容、他の人の発表を聞くときに使用するワークシートの配布、説明をする。授業の開始から7分後、3人から4人のグループを作るため前を向いていた机を向かい合わせにするよう指示を出すと、生徒はグループになって相互に発表練習をし始める。

生徒がハワイで行うプレゼンテーションは、発表テーマは自由である。ハワイの食文化についての発表、ハワイと日本との関係についての発表、ハワイの島々について調べた結果の発表など、生徒の選ぶテーマはハワイに関連したものが多い。しかし、相撲やフェルミ推定について、睡眠についてなど自身の関心に基づいて設定されたものもある。生徒は発表者の発表を聞きながら、ワークシートに記入していく。ワークシートは、「内容が理解できた」、「声が聞こえた」、「目が合った」、「ジェスチャーがあった」、「発表スライドは見やすかった」といった発表の仕方そのものに関する項目と、「内容の確認・疑問点」の項目から構成されている。iPadを使ってのグループワークでは、画面を立てて見せたり机に置いたまま覗き込むように見せたり、といった形で各々のやり方でプレゼンテーションを進めていく。生徒は発表中には集中して聞き、評価を出し合う段階では、「なぜこのテーマを選んだのですか」、「この点についてもう少し詳しく教えてください」など、積極的に内容や発表の仕方について意見を出す。授業時点で作成している資料を用いての発表なので、時間が余るグループが出てくると、福田先生から「他のグループにばらけて発表聞いてみて」、と一人一人が別のグループで発表を聞くことを促す。

柏日体高等学校の授業風景その2

 

グループワークの間、福田先生はほとんど発言しない。机間巡視も控えめだが、全体の様子には常に目を配る。「課題に取り組んでいるかどうかは、全体の様子を見ていればわかるようになりました。今回の授業では、発表しているか聞いているか。うまくいっているようであれば、基本的に介入はしません」。

30分ほどグループで発表練習を行うと、3人ほど生徒を前に呼び、プロジェクタを使用してクラス全体に対しての発表練習を行う。ここでも生徒は集中して発表を聞き、ワークシートに記入していく。質疑の時間では活発な質問が飛び交う。生徒同士の議論が一段落すると、福田先生からは画像を引用するときの出典の書き方や発表時の姿勢など、内容だけに目が行きがちな生徒としては気がつきにくいポイントについて紹介がある。「気づいてもらいたいことのすべてが生徒から出てくるのを待つことはできないこともあります。生徒から出るのが難しいな、と思ったことはこちらから言うと生徒も取り入れやすくなります」、と福田先生は言う。3人が発表練習を終えると、今後の授業でも数人ずつ前で発表し、全員がクラスに対して中間発表を行うことをアナウンスしてちょうど50分の授業が終わった。

柏日体高等学校の授業風景その3

福田先生によると、今の生徒は小学校や中学校でグループワークをやってきているので、グループワークについての不安はないという。「基本的に指示をすれば話し合いはします」。むしろ、個人で行う学習が不慣れなところがあるため、必要な知識を教える講義形式の授業も意図的に取り入れている。現代文は週3時間の授業で、1時間はディベートやプレゼンテーションの授業を実施し、講義形式は2時間程度。基本的な知識は講義形式で身につけさせるようにしている。一方で、「既存の知識にないものに目がいく、それに対しての証明や知識の表現ができるようになること」を目指し、講義でない授業も取り入れている。ここでは、質問の答えを教えるのではなく、質問の中から手がかりを拾っていく。

生徒には、「社会で活躍し、リードするようになってほしい」。「これから何年後であっても、その時代の問題、自分が直面している問題をいかに協働しながら解決できるか。それを育てることが一番重要です」。そのためには、現在のアクティブ・ラーニングへの転換の流れは歓迎だという。「最終的にはアウトプットが大切になります。その意味では歓迎です。しかし、結局はバランスです。知識を入れることも大事なことなので、両者のバランスをとるようにすることが必要です」。多様な人とコミュニケーションをとり、協働して社会を作っていくこと。そのためには、広い意味での文化を理解する必要がある。国語を通して、既存の文化の理解とこれからの文化を創造することを志向するためには、知識と発信のバランスをとることを、福田先生は目指している。

 

>>後編はこちら

 

千葉県柏市の柏日体高等学校柏日体高等学校は、学校法人日本体育大学設置校として千葉県柏市に位置する私立高等学校。「健康と信用は最高の宝」という建学の精神を掲げ、アドバンストコース、進学コース、アスリートコースの3コースによって、学業とスポーツにおいて多くの生徒が活躍している。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    松尾 駿

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