マナビラボ

第20回

2016.08.24

社会の扉を開くドキュメンタリー映画づくり【後編】

本格的ドキュメンタリー映画制作を通して国際人を育てる
ぐんま国際アカデミー学校設定教科「グローブ」の授業

高校1年生全員が年間を通して「映画制作」について学び、チーム毎にテーマを決めてドキュメンタリー映画を制作する、という試みを行っているぐんま国際アカデミー。このプロジェクトを中心的に進めている社会科の小田浩之先生にお話をうかがった。

 

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―高校生による「ドキュメンタリー映画制作」授業というのは全国でも珍しい取り組みかと思います。学校設定教科「グローブ」の授業案として、「映画制作」を提案なさったのは小田先生だったとのことですが、この取り組みを提案なさったきっかけを教えてください。

小田先生:そもそも、私自身が映画好きだったからです。以前、米国で日本人学校に勤務していたことがあり、北ハリウッドに住んでいました。そこで脚本家など多くの映画関係者と知り合いになったことから、映画制作に興味を持つようになりました。帰国後、映画制作について学ぼうと、仕事のかたわら、夜間の映画学校のドキュメンタリーコースに通っていたこともあります。「グローブ」は、教科の目的として「アクティブ・ラーニングを通してグローバル人材に必要な能力資質を高め、国際的な視点で地域の課題を考えることのできる人材を輩出すること」を掲げていたので、「それならドキュメンタリー映画制作がぴったりではないか」と思い、提案しました。

 

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―運営委員長として世界的な映画監督であり、東京芸大の教授でもある諏訪敦彦監督をお招きしたのも小田先生の発案だったとか。

小田先生:はい。実は、通っていた映画学校に特別講師としていらした時に、何度か諏訪監督に講義を受けたことがありました。その際、「映画を撮るということは自分を救う手段だ」とおっしゃっていたのがとても印象的で、大きな衝撃を受けました。今回のプロジェクトが始動することになり、諏訪監督にはぜひ関わっていただきたいと考えていたので、難しいかと思いつつ、思い切ってご依頼したところ、運営委員長をお引き受けいただくことができました。諏訪監督には、プログラム全体の核となる考え方について助言をいただいたり、節目節目で生徒にお話をいただいたり、アドバイスをいただいたりしています。諏訪監督がいらっしゃると、生徒たちも緊張しますし、的確なアドバイスによりテーマを掘り下げることができ、作品の質が高まりました。また、諏訪監督はいつも人間の本質を突く哲学的なお話をなさるのですが、それも生徒たちの心に響くようです。諏訪監督がいらっしゃらなければ、このプロジェクトは成功しなかったと思います。

 

ワークショップで映画づくりを学ぶ

―1年間かけて、映画制作を行うとのことですが、授業の流れを教えていただけますか?

小田先生:夏休み前までの前半は、英語で映画制作について教えてくださる映像作家のトム・フリント先生に来ていただき、ワークショップや講義により、「映画とはなにか」というところから編集や撮影など映画制作の基礎を学びます。夏休み頃から、チーム毎に映画制作に入り、11月には中間発表を行い、3月初めに「ドキュメンタリー映画祭」を催し、学校内外の関係者向けに発表会をする、というのが大きな流れです。

 

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―今日の授業はどのようにチーム内で役割分担して進めていくのか、テーマはどのように決めるのかなど、映画制作の流れについての講義でしたね。

小田先生:今日は講義中心でしたが、それまでは、ワークショップ型の実践的な授業を中心にやってきました。「編集」を学ぶワークショップでは、多くのイメージ写真を組み合わせてグループ毎にストーリーを作る、といったワークを通して、編集によって異なるストーリーができることを体験的に学びました。また前回は3回にわたってミニプロジェクトとして「具体的、抽象的」「現実、非現実」といった反対語をテーマに学校内で撮影し、BGMなしのショートフィルムを撮るというワークショップを行いました。1回目に撮影し、2回目に編集、3回目に発表だったのですが、紙で作ったUFOを動かして「非現実」を表現したり、ぬいぐるみを使ったストーリーなど独創的なものもあり、稚拙ながらも面白かったです。生徒たちも楽しく作っていました。発表の際は諏訪監督も来てくださり、様々なアドバイスをいただきました。

 

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―映画制作は、高価なスキルや機材がないとできそうにないようなイメージがあります。撮影や編集のテクニックはどのように教えているのですか?また、どのような機材を使っているのですか?

小田先生:今の子どもたちは、カメラやコンピュータを使うことには慣れていますし、分からなければネット検索しますので、撮影や編集のいわゆるテクニック的なことは全く教えていません。それよりも、真似ではない自由な発想からのオリジナリティを重視しています。また、機材も特別なものではありません。カメラは学校のものを貸し出しますが、家にあるデジタルビデオカメラや動画の撮影できる一眼レフカメラなどを使っている生徒が多いです。動画編集も、パソコンにもともと入っているiMovieなどのソフトを使っています。パソコンも学校にも備え付けのものがありますが、ほとんどの生徒が自分のノートパソコンを持っていますので、それを使っていますね。映画制作というと、機材などお金がかかりそうなイメージがありますが、実はスマホでも作ることができるのです。ご助言をいただいている筑波大学で映像表現教育などの研究をなさっている西岡貞一教授も、高価な機材などを用意して、壊れたり紛失したりすることを恐れて使用を制限してしまうよりは、安価な機材や自分の持っているものを利用した方が自由に創造的なものが作れる、とおっしゃっています。

 

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―来月からはいよいよテーマを決めて、映画づくりに入っていくわけですね。

小田先生:そうですね。来週は第一段階としてメインプロジェクトのテーマを決め、計画書を書かせてプレゼンをしてもらいます。ただ、現段階のテーマはやっていくうちに変わっていく可能性が高いです。高校生のプロジェクトですので、取材交渉が難航するケースが多いのです。ただ、自分たちで手紙を書いたり、計画書を送ったり、電話をかけたりするのはとてもいい勉強になりますし、やってみて失敗することも大切な経験です。こちら側が「無理だよ」と止めてしまうと諦めてしまうので、まずは「やってみたら」と背中を押すようにしています。

 

題材とテーマは違う「ストラグルを探せ」

―どのようなテーマの映画が多いのですか?

小田先生:様々です。昨年は「干し芋」「ハロウィーン」「パン屋」「祭り」「お化け屋敷」「落語」といったものがありました。といっても、映画というものは、ただ題材を撮っただけではできません。題材と本当のテーマは別のものなのです。諏訪監督が「最初からテーマは見つからない。テーマは題材を追いかけていくうちに見つかるものだ」とおっしゃっていて印象的だったのですが、まさにその通りでした。本当のテーマは真剣に向き合わないと見えてきませんし、困難を伴います。「題材」から本当のテーマを掘り下げていく手段として、我々は「ストラグル(葛藤、引っかかり、問題意識)を見つけなさい」という言い方をしています。

 

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―題材と本当のテーマは違う、というのはどういうことでしょうか?

小田先生:昨年、「温泉」をテーマにしたい、というグループがありました。ですが、単に日本の温泉を紹介するだけでは、そうしたテレビ番組もたくさんありますし、面白くありません。そこで「君たちにしか撮れない温泉の映画を考えて?」と問いかけたところ、日本の温泉ではなぜタトゥーが禁止されているのかという「ストラグル(葛藤)」を見つけ、「温泉とタトゥー」をテーマとした「湯けむりタトゥー」という作品となりました。この映画の撮影は困難を極めました。撮影チームは何件もの温泉に電話をしたのですが、ことごとく取材を断られ、このテーマを扱うことの難しさに直面します。その後、運よく取材をさせていただける方に出会えたのですが、その過程も含めて作品にすることで、非常に深みのある映画となり、大賞となりました。

 

映画制作を通し社会と直に接してほしい

―映画祭での受賞作選考はどのようになさったのですか?

小田先生:NHKプロデューサーなど外部審査員をお招きして評価していただきました。ただ、本当は一作品を大賞として選ぶということはしたくありませんでした。というのも、映画という芸術に順位をつけたくないという諏訪監督の意向があったのと、映画そのもののクオリティよりもそのプロセスの方が大切だと考えていたからです。問題はむしろ起こった方がいい。解決しようと試行錯誤する中で学ぶことができますから。その意味では、1年間かけて作品を作っていけたのは良かったです。失敗から学ぶことができますし、生徒たちはこれほどじっくりと一つの課題に取り組んだのは初めてのことなので、大きな達成感があったようです。

 

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―ドキュメンタリー映画づくりを経験した後、生徒たちに変化はありましたか?

小田先生:以前は、小論文などを書かせても、結論ありきでテーマを決めるようなところがありましたが、今は、生徒にもよりますが、「テーマは決まっているものではなく、発見するものである」というスタンスで取り組むが姿が見られるようになりました。これは思うように撮れないドキュメンタリー映画制作を通して実感したのだと思います。
我々がなぜ、ドキュメンタリー映画にこだわっているのかというと、映画制作を通して、普段出会えない人と出会い、社会と直に接してほしいと考えているからです。生徒たちは社会と直に接し、思うようにならないような体験を重ねる中で、クリティカルシンキングやコミュニケーションなどを学んでいくことができます。我々としても、ものの見方や考え方など、ネットには載っていないような「智恵」を教えていきたいですね。
今後はこの取り組みを続けつつ、他校や大学とも協力して映画製作を通じたアクティブ・ラーニングを開発していけたら、と思っています。

(取材・文章:井上佐保子)

 

GKA-14_Rぐんま国際アカデミーは、群馬県太田市で小中高一貫教育を行う私立学校である。2004年の設立以来、インターナショナルスクールではなく、教育基本法第1条に基づく日本の学校(一条校)でありながらも、英語で一般教科を学ぶ英語イマージョン教育を展開。2011年には国際バカロレアDPの認定を受ける。

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