マナビラボ

第13回

2016.08.03

「毎日真面目にこつこつやってればいいことがあるんだよ」は
どこかで言い続けていかないと

重松清 x 中原淳 x 山辺恵理子(Part 1)

ラボ長の中原が、教育に熱意のある著名人の方をお招きして「これからの社会」や「これからの教育」についてざっくばらんに語り合う、「15歳の未来予想図」。

今回は、作家の重松清先生にお越しいただきました!!

重松清先生は、「ナイフ」「ビタミンF」「流星ワゴン」など、数え切れないほどの著作を出版されていますが、中でも「学校」や「先生」が登場する作品がとても多いのが特徴の一つです。とりわけ、「迷い悩みながら教育や子育てに当たる大人たち」を見事に描かれる重松先生。どのような経験や思いから「教育」をテーマとした作品を執筆されるようになったのか、伺いました。

***

「『勤勉さ』と『従順さ』って、恐らく今の価値観の中では決して褒められないかもしれないし、むしろマイナスのニュアンスのほうが大きい。僕も小説〔「仰げば尊し」〕の中では否定的に使ってるんだけど、それでも俺、「毎日真面目にこつこつやってれば、いいことがあるんだよ」っていうのは、どこかで言い続けていかないといけないと思うんだ。
全てが実力主義で、弱肉強食で、「駄目なやつは駄目なんだ」っていうのは、それが社会なんだけど、でも、学校の持っているある種のきれい事なのかもしれないんだけど、「毎日真面目にやってれば、きっといいことがあるから」っていうメッセージは、誰かが言ってあげないとしんどい気がすんだよね。」

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なお、今回は「2016年 夏休み特別版!」ということで、

通常は3部に分けて配信する「15歳の未来予想図」の動画を4部で配信します(合計65分!)。
また、「3分でわかる!マナビの理論」担当の山辺恵理子も混じり、鼎談形式でお送りします。

ぜひ、8月は毎週水曜日更新の「15歳の未来予想図」をお楽しみください!

 

 

Part 1: 「『毎日真面目こつこつやってればいいことがあるんだよ』はどこかで言い続けていかないと」

→Part2: 「はみ出すやつが救えないんだったら、ダメじゃん教育って」

→Part 3: 「ひとに迷惑をかけるんは、そげん悪いことですか?」

→Part 4: 「まず『ここにいる』っていうことを最大限に肯定したい」

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中原: こんにちは。

山辺: こんにちは。

重松: こんにちは。

中原: 未来を育てるマナビラボ「15歳の未来予想図」ということで、きょうは作家の重松清さんにお越しいただいてます。

重松: はい。こんにちは。

山辺: ありがとうございます。

中原: 本日は、よろしくお願いします。

重松: よろしくお願いします。

中原: 重松先生の本といえばもう、あらゆる方が、いろんな機会で目にして、たくさん読まれてると思うんですけれども、
さっきちょっと聞いたら、『東大生が選ぶ教科書で教えてくれないことを教えてくれた100選』っていうのがあるらしいんですけど。

重松: へえ、うん。

中原: それに3冊ぐらい出てると。

重松: 本当?

山辺: はい。

重松: それは、すごくうれしい。本当にうれしいなあ。

中原: 先生は、今まで何冊ぐらいお書きになられたんですか。

重松: 小説だけだと、80冊ぐらいは書いているんじゃないかなあ。

中原: 80冊とは、すごいですね。

重松: いや、結構、何だかんだと、もう作家デビューして25年ですから、もう四半世紀やってるってことになるとね。

中原: ネットがない時代からですもんね。

重松: そう。ネットなかったしね。昔の小説読んでると、公衆電話って普通に出て来るんだよね。電話ボックスとかね。

中原: 今、ないですもんね。

重松: 今もうないもんね。

中原: そうですよね。先生の本は、教育とか、学校とか、先生とか、子どもとかがよくテーマで出てくるんですけれども、こういうことに先生が興味持たれた理由や背景っていうのはあるんでしょうか。

重松: 僕は、大学も教育学部だったし、教員免許も持ってるんだけど、先生になりたかったんだよね、もともと。
この前、小学校時代の卒業文集を、全く僕も忘れてたんだけど、持ってきてくれた人がいて、友達でね。
それ読むと、将来の夢は「先生になりたい」と。「学校の先生になって、教え子が30年たっても忘れないような印象深い授業をしたい」とかね。
「定年退職したら小説書きたい」って、書いてんだよ。

山辺: へえ。

中原: あらら。じゃあ、順番が逆ですね。

重松: でね、「ノーベル賞、芥川賞、直木賞などは欲しいとは思わないが、いつまでも読者のいる作家になりたい」っていうような。
なんか生意気なやつだなと思ってね(笑)。

中原: 小学生ですか。

重松: そう。6年生でね。
やっぱり、僕の中で、作家になるっていうのと同じように、学校の先生って、すごく好きだった。

山辺: 好きだったんですか?

重松: うん。好きだった。
すごい仕事だよなっていうか、いいなと思ったしね。

山辺: 一方で、重松先生が書かれる先生像って、すごく不完全というか。
『金八先生』とか『GTO』とか、そういうのとは違って、一発、子どもたちを救ってやるっていう先生ではなくって、先生もいろいろ駄目な所とか抱えながら生きているっていう先生を描かれると思うんですけど、だから、むしろ先生の駄目な所っていうのも、よく見てらしたのかなっていう気がしたんですけど。

重松: 僕は、すごく転校が多かったんですよ。
で、転校生の一番のメリットって、たくさん先生と会うんだよね。
今だったら、普通に小学校卒業したら、2年で1人、担任の先生だとすれば、3人じゃないですか、出会えるのが。
ところが、転校するたんびに新しい先生がいて、あるいは新しい学校の文化ってのが、それぞれに全然違うんだよね。
恐らく、小学校時代からたくさんの先生がいて、聖人君子ばかりではなかったしっていうのは、見てきたかもしれない、比較的ね。

中原: 『きよしこ』の中にも出て来ると思うんですが、やっぱ、違いますよね、地域によっても。

重松: 例えば、学校によっては、2時間目が終わったらマラソンをする学校があったりとか、掃除も昼休みの後にする学校もあったし、放課後にする学校もあったし、それから、授業が始まるときに、「起立、気を付け、礼」までする所もあれば、授業の始まりは座ったままで「礼」だけのもあったり、いろんな学校がある。
それって学校の文化だと思うし、学校の地元との関係っていうのが、やっぱりあると思うんですよ。
農村部の学校にも行ったし、それから、転校生がたくさん集まってきて、人数が増えたから僕が転校する1年前に分裂して、僕が転校した3年後にまた分裂するっていうような、細胞分裂するような、人口がどんどん増えていく町の学校には、今度はその学校の文化ってあると思うんですよ。
だから、そういうのをたくさん見てきたっていうのは、大きいんじゃないかなと思う。

中原: なるほど。そういう意味で、先生にもたくさん会われてきたし。

重松: 会った。

中原: いろんな子どもにも会われるようになったんですね。

重松: ちょうど僕が、昭和44年、1969年に入学したんです。で、結局その世代だと、旧制の、戦前の、師範学校を出た先生もいるし、それから戦後の学生運動をやって先生になった新人教師もいたりして、子ども心ながらに、若い先生がベテランの先生といつもけんかしてるなあとかいうのを感じたりね。
だからその面では、戦前の、あるいは戦中のものも最後に残っていて、そこに新しい戦後生まれの先生も登場して。だから、僕たちの小学校時代に、学園青春ドラマがあれだけはやったっていうのも、多分リンクしてんじゃないかなっていう。

中原: そういう意味でいうと、いろんな人がいて、ある意味カオスだったんでしょうね、その時期はね。

重松: そう。だから完全に、70年代の学園ドラマってみんなそうだと思うんだけど、生徒と大人っていう世代間の対立があって、先生の中でも、新人の熱血先生と、保守的な事なかれ主義の教頭先生とかっていうような、職員室にも職員室の青春のぶつかり合いがあり、教室にもあったっていう、それはすごく感じますね。

中原: なるほど。お、どうぞ。

山辺: すみません、ちょっといいですか。
先生の『卒業』っていう単行本の中に入ってる『あおげば尊し』とかは、世代間の違いを描いていますよね。
お父さんが高校の先生でらして、その息子が小学校の教師をしてるっていうので、その父親のほうが、こういうふうに言ったっていう一節ですけど、
『大して取りえのない連中が社会でやっていくために必要なものは、勤勉さと従順さで、それを植え付けるために学校という場がある』。

重松: これはあくまでも、間違った意見だってことで書いてるからね。
そこをちょっと気を付けないと、「これが重松の思想です」って言われたらいけないから。全く、逆説なんだ。

山辺: そうです、そうです(笑)。
でも、こういうことを言う、当時の一世代上の先生たちに対しても、頭ごなしに「こんな教育観は駄目だ」っていう小説ではなくって、敬意が最後まである。

重松: だって、この「勤勉さ」と「従順さ」って、恐らく今の価値観の中では決して褒められないかもしれないし、むしろマイナスのニュアンスのほうが大きい。
僕も小説の中では否定的に使ってるんだけど、それでも俺、「毎日真面目にこつこつやってれば、いいことがあるんだよ」っていうのは、どこかで言い続けていかないといけないと思うんだ。全てが実力主義で、弱肉強食で、「駄目なやつは駄目なんだ」っていうのは、それが社会なんだけど、でも、学校の持っているある種のきれい事なのかもしれないんだけど、「毎日真面目にやってれば、きっといいことがあるから」っていうメッセージは、誰かが言ってあげないとしんどい気がすんだよね。
だから、この小説の中では「植え付ける」とか「取り柄がない」っていうふうに、割とマイナスに書いたんだけど、しかし、これが本当になくなっちゃったら、「『勤勉さ』『従順さ』っていうのも立派な君のいいところなんだよ」って言ってくれる人が本当にいなくなっちゃったら、これは厳しい世の中になるなっていうのも、最近はちょっと思ってたりしてね。

中原: だから例えば100人いて、80人とか70人とか、多くの人たちが救われるのって、多分、毎日こつこつやってればいいことがあるよっていう思想なんだと僕は思っていて、実力主義で出るもん出て、「はい、グローバル」みたいな世界って、そんなに多くないってところもありますよね。

重松: そう。まだ僕たちの時代は、本当に真面目しか取りえのないお父さんだったり子どもだったりしても、決して派手な人生とか、みんながうらやましがる人生じゃないにしても、ちゃんと居場所があって、生活が成り立ってって、それができてた時代。俺はやっぱり幸せだったと思うし、その幸せが、現実問題でだんだん成り立たなくなっていってるんだけど、それでもどこかの部分で「とにかく真面目でこつこつ」っていうメッセージを言ってもらえないと、どっかで救われないと、しんどいなあ、と思うんだよね。
だから、恐らく僕の小説の主人公って、まさに、先生もそうだし、お父さんもそうなんだけど、みんな不完全だし、少なくとも勝ち負けで言ったら、そんなに勝ってないよなっていう。弱いよね、多分ね。

山辺: そうですね。

中原: いや、僕は、二人ともファンなんですけど、『小さき者へ』っていう、これがめちゃくちゃ好きでですね。
これ、僕の好きな一節なんです。
『親はどんなときにもベスト盤を子どものために、よかれ思って選んでしまうものなんだ』と。
『そして子どもの本当に聞きたい曲に限って、ベスト盤には入っていないんだな』という一節がなんですけど。
これも、ここで描かれている父親像はちょっとリストラ近くって、子どもの方はいじめとかにも苦しみながら、家庭内でもちょっと暴力があったりして、最後に結構、希望的なことが書かれてるんですが、この一節が、もう、響きましたね。

重松: これ、小説の中では『ビートルズ』のベスト盤を渡しちゃうんだけど、ベスト盤っていうのは外れがないんだよね。
やっぱり、親もそうだし、子どもたち自身もそうかもしれないけど、失敗を恐れるから、外れなしっていうものを与えるんだけど、本当の「当たり」って、分かんないわけよね。
少なくとも、「ヒットした」あるいは「代表作だった」っていうのと「その子にとってのベスト」っていうのは、一致しないわけだよね。

山辺: うん、そうですね。

重松: 親と子どもって、やっぱり違うんだよね。
本人じゃないんだから、一応、親が「ベースとしてのベスト盤」?「まあ一応これはベストだけど、だけど、恐らくおまえの一番好きな曲はこの中にないと思うから、だけどそれは親が与えられるものじゃないから、取りあえずベストは、お父さん買ってやる」と、「あとは自分で探せ」としか言いようがないのかもしんないよね。

中原: 僕、子どもがいるんですが、親になるかならないかぐらいのときに、その子どもにとって、やっぱりベストなものを与えたいなって、どっかで思ってたんですよ。
でも、与えらんないよなっていうのもどっかでも思ってて、で、たまたまこの本を読んだときがあったんですよね。
で、そのときすごく思ったのは、「あ、そっか」と。
「自分が選んだベスト盤みたいなものを、たとえ与えても、本人がベスト盤と思わないんだったら意味ないんだな」と。

重松: そうそう。

中原: で、例えばベスト盤じゃない普通のアルバムでも、なんか気に入っちゃう曲ってあるじゃないですか。

重松: あるね。

中原: 結局、そういう機会を自分で見つけるしかないんだなと。
ベスト盤は、だから自分で作っていくしかなんだなと思ったとき、すごく、僕、気が楽になって、じゃあ子育てに向き合えるなと。

重松: 恐らく、ベスト盤っていうのが、スタンダードかもしれないし、これが一応世の中のベストだから、「参考までに知っとけや」と。
あとは自分で見つけるしかなくて。で、そのときに、とんでもない曲選んだりすんだよね、子どもってね。
「これ、ベストか、おまえにとっての?!」って。
そのときに、「探す」っていうのと「見つかる」っていうのは絶対イコールじゃないから、「自由に探しなさい」って言ったからには、「探し損ねること」まで、「見つけ損ねること」まで認めとかないと駄目な気がすんだよね。

中原: どことなく、このお父さんが憎めないね、そういうお父さんでした。

重松: そうなんだよ。いいやつなんだよね。

中原: いいやつなんですよ。

 

(Part 2 に続く)
  • 取材

    中原 淳

  • 取材

    山辺 恵理子

  • 撮影

    松尾 駿

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