マナビラボ

第18回

2016.07.27

強みを生かすことで
マナビが自由になる【後編】

「対話」と「信頼」が開く新たな知のネットワーク

貴重な一次史料を授業に導入することで、新たな発見や既存の知への問い直しを生み出すアクティブラーニングのあり方を構想する新潟県立新発田高校の竹田和夫先生。構想に至った背景と、今後の展望についておうかがいした。

 

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−−− 竹田先生は「すべてのスタートはこの本からでした」とおっしゃってパウロ・フレイレの『被抑圧者の教育学』を挙げておられますが、先生のご実践のはじまりについて聞かせてください。

竹田先生:現在の実践につながるような試みに着手したのは、実はいわゆる「進路多様校」と呼ばれるような学校でのことでした。その学校で進路指導の担当に就いたのがきっかけです。当時、新潟県全体で不登校の生徒に向けた指導資料を作成するプロジェクトに関わっていたのですが、その関係で県内のさまざまな授業実践を観察することができました。そこで気づいたのは、学校に行かない、学校が嫌いになる、教師が嫌いになるというのは、つまるところ授業が面白くないということに起因するところが大きいのではないかということです。どうにかして「また学校に行きたい」と思うような魅力的な授業ができないかという思いから私の模索ははじまりました。その時に手に取ったのが、フレイレの『被抑圧者の教育学』でした。おおげさに聞こえるかもしれませんが、私には学校を退屈に感じている生徒たちと「被抑圧者」と呼ばれる者たちが重なって見えたのです。

 

−−− フレイレの思想からどのようなヒントを得たのでしょうか。

竹田先生:フレイレから学んだ最大のことは「対話」と「信頼」の重要性です。この言葉に強く惹かれました。そんな折に、私は東京大学への内地留学の機会を得たのですが、そこでの経験が、「対話」と「信頼」という理念に具体的なモデルをもたらしてくれました。ですので、フレイレとの出会いは二つの経験が重なり合うところでなされたという感じがあります。つまり、学校を退屈なものと感じている生徒と向き合うという経験と、大学での自由な研究の経験の二つです。

 

−−− 大学での研究のご経験は現在の竹田先生の試みにどのように生かされているのでしょうか。

竹田先生:大学での研究において衝撃を受けたのは、師事していた先生が「あなたの言っていることが明らかに文書や史料に反するものでない限りは、それについていかようにも解釈を述べていいのですよ」とおっしゃっていたことです。これは本当に驚くべきことでした。私には、この受容的な姿勢がフレイレの言う「対話」と「信頼」に基づくもののように思われたのです。それから、単に史料に向き合うということだけではなく、それが「対話」と「信頼」の関係性のもとでなされることではじめて自由な学びが生まれるのではないかと考えるようになりました。

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−−− 大学でのご経験が現在の試みのモデルとなっているとのことでしたが、研究と教育との関係はどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

竹田先生:大学と高校との関係で言うと、大学の学知を咀嚼した部分を高校へ下ろしてきて教えるというのが一般的だろうと思います。しかし、私は逆の方向。つまり、高校の現場で生まれた発見や新しい発想のようなものを大学に投げかけてみるということをやっています。そうして書籍化に至ったものもいくつかあります。もちろん学術研究において培われてきた学知の重要性が減じられるわけではありません。しかし、大学と高校、研究と教育が相互にお互いの知を問いなおすような関係があってもいいのではないかと思います。それが真の高大接続につながるのではないでしょうか。実際に、大学に進んだ教え子の話を聞くと、大学に入るとすぐさまアクティブラーニング的なものに出会うようです。ですので、高校から大学での研究に通じるような学びに取り組むことの重要性はますます高まっているように感じています。

 

−−− ところで本時の授業の前半では、竹田先生ではなく、生徒が教壇に立って重要事項について説明するという場面がありました。学習者が学習者に教えるという形態をとるようになった経緯について教えて下さい。

竹田先生:このスタイルにしたのは、実はこの4月からのことです。ある日、放課後に教室を覗いたら生徒が生徒に授業をしていたんです。その時そこにいた生徒たちがすごく生き生きしていたんですね。後で彼らに聞いてみたら、昼間の授業では物足りないと、それで集まって歴史が得意な生徒を中心に学習会をしていたと言うんです。ひょっとしたら、生徒の方が面白い授業をしているんじゃないか、そんなふうにすら感じたんです。こうした学習会の輪が広がっていると聞いて、「私(竹田先生ご自身)も入れて欲しい」と生徒たちにお願いしました。そうした経緯があって、この4月から、彼らに授業を任せてみようと思ったのです。もちろん、助言はします。でも基本的に彼らのやり方を尊重しています。何せまだ始めて一ヶ月ですから、これからが大切ですが、長いスパンで見ていきたいなと思っています。

 

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−−− 歴史が得意な生徒が授業の進行をリードするというのは、とても面白い試みだと思うのですが、一方で得意な生徒だけが活躍するばかりになってしまって、苦手な生徒との間に隔たりができてしまうという危険性もあるかと思います。そうした懸念から、得意な生徒に授業を委ねることに慎重になる先生もおられると思うのですが、その点についてはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

竹田先生:私としては、歴史の得意な生徒がそうでない生徒を引っ張るというような図式では考えていません。英語が得意な生徒、絵を描くのが上手な生徒、運動が得意な生徒、ユニークな発想を臆せずに発言できる生徒などなど、それぞれの生徒の多様な特性が活きるような授業を目指しています。ですから、得意、不得意という優劣関係ではなく、それぞれの特性や強みが相互補完関係にあるような、そのような生徒同士の関係性が学びを通じて取り結ばれていけばと考えています。

 

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−−− たしかに、本日いくつかの授業を拝見しましたが、ムードメーカー的な生徒が司会進行として活躍していたり、英語の得意な生徒が英文の説明文を読み上げたり、絵の上手な生徒が挿絵を入れた参考資料を作成していたりと、様々な活躍の場が準備されていたのが印象的でした。ところで、授業をリードする生徒ではなく、それにリアクション(reaction)する生徒については、アクティブラーニング的な視点からどのように捉えられるのでしょうか。

竹田先生:その点については、一回の授業、一つの教科の範囲を超える視野で捉える必要があるかと思います。たとえば、授業をリードした生徒に限らず、授業終了後も生徒同士で議論を続けていえる場面がしばしば見受けられます。さらに、生徒会活動など、学校生活のあらゆる場面で生徒主導の試みがなされています。その基盤には、授業を通じて培われた信頼関係のようなものが少なからずあるのではないかと。学校説明会の企画・運営を生徒に委ねるという挑戦も、こういう文脈から可能になった部分があるだろうと思います。新発田高校の良さを一番知っているのは、生徒ですからね。彼らほど学校説明会の主催者としてふさわしい者はいないというのが、校長先生の考えです。このように、生徒には多様な活躍の場が準備されています。ですので、一回の授業に限られず、広くその波及効果を見た場合、それぞれの生徒の活躍は多様な場面でなされているのではないかと想定しています。

 

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−−−合教科や学校全体の取り組みを射程に入れて取り組まれているとのことでしたが、その際の教員間での協力関係についてはどのように考えておられるのでしょうか。

竹田先生:まずもって、私がアクティブラーニングに向けた様々な試みに挑戦することができているのは、校長先生をはじめとする先生方の理解と協力があってこそのことです。新発田高校全体がそういった挑戦的な試みを生み出すような校風であるのは、大きな強みですね。学校説明会の企画・運営を生徒に任せてみようという挑戦を積極的に後押ししてくださる校長先生や、今回のように授業でのコラボレーションに応じてくださる先生がいらっしゃるからこそ、本校でのアクティブラーニングの試みは可能になっています。そういう意味では、教師と生徒、生徒と生徒だけではなく、教師同士の間にも専門性を活かし合う信頼関係を築いていくことがアクティブラーニングの試みにおいては不可欠なのではないかと思います。信頼と対話と基盤とすることで、それぞれの強みや専門性を活かした自由な学びが開かれるのではないでしょうか。それぞれの卓越性を活かしつつ、それが上下関係ではなく平等な関係において発揮されるときに、知的探求への推進力が生まれるのではないかと考えています。まだまだ挑戦は途上ですが、様々な特性をもった学習者たちがつながるお手伝いができればと思っています。

 

 

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新潟県立新発田高等学校は、明治29年に北蒲原尋常中学校として開学した創立120周年の進学校である。文武両道をモットーに、また、「質実剛健にして未来の俊傑を目指す」という創設以来の校是のもと、全校一丸となって学力向上と部活動の振興に努め、生徒を育んでいる。平成25年度からはスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)の指定を受ける。

  • 取材

    田中 智輝

  • 撮影

    山辺 恵理子

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