マナビラボ

第17回 マナビをひらく!授業のひみつ

2016.07.20

史料のちからがひらめきを生み出す

見て、ふれて、読み解く日本史の授業
新潟県立新発田高等学校・竹田和夫先生の歴史の授業【前編】

 

新潟県立新発田高等学校は、今年で創立120周年の歴史をもつ県内有数の進学校である。引き継がれてきた伝統を誇ると同時に、新しい試みを生み出す革新性を志向する同校には、生徒が挑戦する場が様々にひらかれている。昨年は入学希望者のための学校説明会を企画から運営まで、すべて生徒主導で行った。藤井人志校長先生は、「失敗があるのは当然、失敗を恐れずに生徒に挑戦してほしい」と、生徒(さらには教職員)の新しい取り組みを歓迎している。

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生徒が教え、生徒が学ぶ

今回お邪魔したのは、竹田和夫先生の日本史の授業。とはいっても、授業が始まっても竹田先生は教室の隅に位置どったまま動く気配がない。生徒の一人が教壇に立つと、慣れた様子で授業を進める。この日の主題は「寛政の改革」。教壇に立つ伊藤優さんは、クラス全体に問いかけながら基本事項を確認していく。その間、竹田先生は一言も口を挟まず、じっと教室を見つめていた。グループワークも交えつつ生徒だけでのやり取りが、15分ほどなされたところで、伊藤さんは当時の政策と飢饉との関係について竹田先生に補足を求めた。竹田先生は、飢饉の状況とその対応について簡単に補足し、松平定信と社会保障をめぐる今日的課題のつながりに言及すると、再び授業の進行を生徒たちに委ねる。

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基本事項とそれに関わる背景知識が共有されたところで、竹田先生は伊藤さんから進行役を引き受けると、生徒たちに新たな問いと史料を提示する。授業後半の課題は、江戸時代における幕府と朝廷の力関係を探ることだ。幕府が強い実権を有する江戸時代において、天皇の権限はどの程度のものであったのか、これを探るのが後半の目玉だ。とりわけ、前半とのつながりで言うならば、典仁親王への尊号の贈与をめぐる、幕府側の松平定信と光格天皇との紛議事件(「尊号一件」)は、当時の幕府と朝廷の力関係が先鋭化した事態として捉えられる。両者はどのような力関係にあったのか。竹田先生は、二つの古い文書を史料からそれを読み取ることを提案する。

 

史料に触れる

今回用いられたのは東京大学史料編纂所から借用した複製史料である。大きさや紙質まで原本が忠実に複製されている。本時では、中世にあたる南北朝時代の天皇の自筆の文書と、光格天皇のそれとを比較する。両者の比較から、政策決定における天皇の立場性を汲み取るのが課題だ。できる限り実物に近い史料を取り上げることにこだわる背景には、史料をきちんと読むということが希薄になっているという危機感があるという。

08059729_R竹田先生にとって「史料を読む」ということは、単に字面を読むということではなく、史料が書かれた時代の文化や習俗を含めて読み解くということまでを含んでいる。こうした意味で「史料を読む」ことを捉えたとき、史料を実際に手にとって触れることができるということは大きなアドバンテージとなる。文字情報だけではなく、大きさ、色、質感などの感覚的な要素を勘案することではじめて、その史料に秘められている情報を存分に引き出すことができるからだ。

 

合教科で一歩踏み込んだ読み取りを導く

史料を読み解くより高次のリテラシーを育むことは、これまで歴史科で扱われてきた知識、スキルの範疇を超えるものである。ここで重要となるのは、他の教科や専門家との連携だ。本時においては、書道を担当されている佐藤先生とのコラボレーションがその役割を担っていた。これまで、歴史科と書道は全く別個の教科として扱われてきただろう。しかし、実は、文書の内容だけではなく、用いられている用紙の質や、どのような字体で描かれているかからも、その文書の政治的な重要度や権威性などを汲み取ることができるのだという。史料を深く読み込むためには、こうした教科の分類にとらわれない、専門性の活用が不可欠となるというのが竹田先生の考えだ。生徒たちは、佐藤先生からのレクチャーを参考にしつつ、二つの文書を比較し、その文書が持つ意味を推測していた。

竹田先生は、このような合教科の試みがアクティブラーニングには欠かせないと言う。現状はといえば、社会科の内部(歴史、政治経済、地理など)ですら別々の科目として分断されている場合も多く、教科間、科目間の隔たりは小さいとは言えない。そんななかで、竹田先生はそれぞれの教科、科目の専門性が活きる場面を積極的に作り出して、合教科を進めていきたいと考えている。それが、これまでの教科、科目の枠では捉えられなかった発見を生み出すことにもつながるという。

 

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学知に挑戦する

現物の史料にこだわる理由は他にもある。すでになんらかの解説が施され、その解釈に直接的に関連しない要素が捨象された「史料」は、確かにその意味を汲み取りやすいが、他方で、当該の史料についての解釈の幅が縮減されたものでもある。竹田先生のねらいは、現物の史料を提示することで、解釈の幅を押し広げ、これまで学術研究においてすらなされてこなかった新しい見方や発見を高校の教室から発信することである。もちろん、そうだとしても大学の学知の価値が減じられるわけではない。しかし、大学の学知に依拠しつつ、他方でそれを相対化するような視点を生み出していくことができないだろうか。竹田先生のこうした挑戦はすでに形となって結実している。実際に、授業のなかでなされた発見のなかの一部は、竹田先生の手を経てまとめられ、出版に至っている。大学で認められた学知を高校に下ろすだけではなく、そこで示されていることを問いなすような働きかけを同時に行うことが、真の高大接続なのではないだろうか。竹田先生が、学術研究で用いられている水準の史料を高校の授業に積極的に取り入れていることの背景には、こうした動機があるという。

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生徒たちは現物の史料に触れ、お互いの仮説を交換し合っていた。史料が開く豊かな想像力と多様な解釈から新しい発見が生まれるのだろう。魅力的な史料と能動的に学ぶ生徒たち、そして複数の専門的な知を出会わせること。これまで教室で出会うことのなかったものたちを結びつけることに、竹田先生のアクティブラーニングの核心があるのかもしれない。こうした「出会い」をコーティネートする竹田先生自身にはどのような出会いがあったのだろうか。お話をうかがった。

 

>>後編に続く

 

 

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新潟県立新発田高等学校は、明治29年に北蒲原尋常中学校として開学した創立120周年の進学校である。文武両道をモットーに、また、「質実剛健にして未来の俊傑を目指す」という創設以来の校是のもと、全校一丸となって学力向上と部活動の振興に努め、生徒を育んでいる。平成25年度からはスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)の指定を受ける。

  • 取材

    田中 智輝

  • 撮影

    山辺 恵理子

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