マナビラボ

第14回

2016.05.25

生徒を観察することが
アクティブラーニングの第一歩

グループ学習で学ぶ数学の授業【後編】

グループ学習の成功のカギはルールの徹底

鈴鹿市にある学校法人鈴鹿享栄学園 鈴鹿中学学校・高等学校にて、授業にグループ学習を導入し、高い学力向上効果をあげている数学科教諭の岩佐純巨先生。生徒たちが互いに話し合い教え合うグループ学習で学ぶ数学の授業には、どのような秘密があるのだろうか。授業後、岩佐先生にお話をうかがった。

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――生徒たちは、全員が真剣に問題に取り組み、騒いだりすることなく、静かに、でも丁寧に教え合いをしていました。グループ学習で私語もせず、集中して取り組めているのはなぜでしょうか?

岩佐純巨先生(岩佐先生):グループ学習を成功させるためには、最初の1か月間にルールを徹底させることが肝心です。4月中は①3つの時間(一人で考える時間、学び合う時間、先生の話を聞く時間)を使い分けること、②教科学習以外の話をしないこと、③きき合う関係をつくること(きく=聞く、聴く、訊く)という「グループ学習のルール」を記した紙を張り出しておき、毎時間しつこく説明します。少しでも私語があれば、「はい、元の席に戻して。グループ学習止めます」と中断させ、ルールを思い出させることもあります。というのも、最初のルール徹底がきっちりできていないと、グループ学習はうまくいかないからです。1-2か月経つと、私語もなくなり、私が話し始めれば、自然に話を止めて聞いてくれるようになります。

――ルールを徹底することで、生徒が学習に集中する状態を作りだすことができるわけですね。

岩佐先生:そうはいっても、1時間常に頭が働いているというわけではありません。さすがに寝る生徒はいませんが、実際のところ、生徒が集中して先生の話を聞ける時間は長くても15分程度。ですので、話すのは5分から10分程度にとどめるようにしています。私の場合は、5分解説して15分グループで問題に取り組み、また5分解説して15分グループで問題に取り組み、最後のまとめとして10分解説する、というパターンが、生徒の集中力を保つ上でベストな時間配分です。

――グループ学習の際、先生は生徒とどのように関わっていらっしゃいますか?

岩佐先生:授業中は常に生徒を見ながら歩き回り、生徒の話す言葉に聞き耳を立てています。私の仕事はグループで関われない生徒や、一人で先走っている生徒を見つけて軌道修正することです。また、そもそもグループの全員がお手上げといった状態では、教え合うこともできませんので、生徒たちの様子を見ながらアドバイスをしたり、ヒントを与えたりします。
中には、こちらが驚くほど早く問題を解いてしまう生徒もいます。そうしたできる生徒を退屈させてしまうと、グループ学習嫌いになってしまいますので、そうした生徒にはすぐに難易度の高い課題を渡せるよう、プリントは常に多めに持っておくようにしています。
4人の状態が一目で把握できるのもグループ学習の良さです。生徒一人ひとりではなく、9つのグループの状態を見ていけばいいので、短時間で全体の様子を把握することができます。

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家庭学習が一番怖い?

――なぜグループ学習を取り入れることによって、理解が深まるのでしょうか?

岩佐先生:これまでの勉強法は、ひたすらインプットするばかりで、アウトプットすることがほとんどありません。アウトプットする機会は、宿題やテストぐらいです。私はここに問題があると感じていました。インプットした知識を定着させるためには、インプットとアウトプットを何度も繰り返す必要があります。頭では「わかった」と思ったことでも、説明しようとして言葉にするとうまく説明できない。となると、もやもやしますので、もう一度考えたり、人に聞いたり、調べたりします。そこで再度「わかった」となれば、すっきりします。経験上、知識というものは、このようにインプット、アウトプットを繰り返して再構成することで、ようやく系統化されて定着していくものなのではないか、と思っています。グループ学習により、知識を言語化してアウトプットすることは、知識をもう一度自分の中に入れなおすことになるのです。

――では、ただ問題集に取り組み、解法を見ながら答え合わせをするだけの学習法では知識は定着しないと。

岩佐先生:実は家庭学習が一番怖いと思っています。真面目だけれども勉強ができない生徒ほど、参考書や問題集の答えを見て写して覚えようとします。なんとなく理解できる部分はいいのですが、全く分からないとなると、何度答えを見ても分からないので、やりかただけを暗記するようなことになります。こうした勉強方法は時間がかかるのでやった気にはなります。しかし、根本的なところを理解していないので、テストで点数を取ることができません。私は「解答を見てもいいから、徹底的に理解するまで読みなさい。その後、再度テストを受けるつもりで解き直し、何も見ずに解けるようになるまでやりなさい」と、指導しています。

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――グループ学習によって、学力が向上しているとのことですが、具体的にどのような工夫をなさっているのですか?

岩佐先生:授業中に「わかった」ことを何度も振り返って定着させることが大切です。そのため、最初のうちは毎時間、今は毎週末ですが、学んだことの要点を整理するプリントを配って宿題にしています。また、単元が終わったタイミング、テスト終了後、と、少なくとも3回は振り返りの要点まとめをさせます。その他にも週末課題や確認テストを行い、知識をアウトプットする機会をしつこく設けるようにしています。その上で、身につけた知識を活用して問題を解く練習をしていきます。また、通常の授業のほかにこちらから応用問題を与えるハイレベル講座と、自分自身で未消化の部分を学ぶことができる基礎講座があり、これらには生徒から自主的に参加してもらっています。
しばしば、「アクティブラーニングで学力は伸ばせない」などと言われますが、アクティブラーニングで学力が伸びない理由は、振り返りが足りないからです。振り返りのためのプリントや宿題、課題、テスト、などを授業設計の中にしっかりと組み込み、知識のインプット、アウトプットを繰り返せば、自分の頭で考え、理解した知識が定着するので、むしろアクティブラーニングの方が学力は伸びます。

――生徒たちが学んでいる内容は非常にハイレベルなものでしたが、全員が授業についていってしっかりと理解しているようでした。

岩佐先生:基礎知識を前提とせず、持っている知識だけを前提にして授業を設計しています。すると「今まで数学の積み上げがなく、わからなくなってしまってあきらめていた」という生徒もついてくるようになりました。一斉授業型では、どうしても基礎知識があるという前提で授業を進めなくてはなりません。すると、基礎知識がない生徒はわからない単語が出てきた瞬間に「もうだめだ」と寝てしまいます。本当はそのときに、その単語の意味を隣の人に聞くことができれば、理解できるはずなのです。グループ学習では、友達同士なので、わからなければ気軽に聞くことができるのがいいところです。知識は積み上げでなく、その場で拾ってくればいい、と考えています。

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全員を大学数学の入り口まで連れていってあげたい

――授業カリキュラムを組み立てる際は、どんなところに気をつけていらっしゃいますか?

岩佐先生:カリキュラムを立てる際、一番大切なことは、自分でその単元のポイントをしっかりと押さえるということです。アクティブラーニングを取り入れると、授業進度が遅くなる、と言われますが、最初にポイントを押さえたデザインを組み、見通しを立てておけば、むしろ早くなります。教科書をそのままめくっていくような授業をやろうとするとどうしても遅くなってしまいます。
もう一つ大切なことは、単元のポイントを生徒と共有しておくことです。私は、単元ごとに要点ポイントをまとめたオリジナル教材を作っています。そして、新しい単元に移った最初の授業でこの要点プリントを配り、生徒たちに、その単元のポイントと到達目標を生徒たちにきちんと示しておきます。すると生徒たちも、今なにをやっているのか、どこまできたのか、がわかりますし、大事なポイントだから時間をかけているんだな、ということも分かります。
アクティブラーニング型授業で一番大切なのは、生徒が「ルールと到達目標がわかっていること」です。それが分からないと、生徒たちは飽きてしまいますし、あきらめてしまうように思います。

――アクティブラーニングを授業にうまく取り入れるためには、どんなことに気をつければよいでしょうか?

岩佐先生:アクティブラーニングは手法、スキルだと思われているので、「取り入れるのが難しい、成果も出ず、手間がかかってしんどい」などと言われています。ですが、アクティブラーニングとは授業法、教授法ではなく、生徒側の学び方、学習法なのです。生徒のアクティブラーニングを取り入れてどう授業を構成するか、という問題なのに、自分の教授スタイルをどう変えるかという問題だと考えられているから普及しないのではないかと思います。
「アクティブラーニングを取り入れよう」と、スタイルや教材を工夫するよりも、まずは生徒を観察する方が大切です。目の前にいる40人の生徒全員を大事にして、生徒たちが一人残らずいきいきと学ぶ状態を目指せば、自然にアクティブラーニングになっているはずなのです。

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――生徒を観察することが、生徒のアクティブラーニングを取り入れるためのカギであると?

岩佐先生:ええ、生徒の頭の動きをどうやってフォローしていくか、ということにつきると思います。目の前に40人の生徒がいるのに、生徒を無視してただ自分勝手に話しているだけの授業では、どんな授業スタイルでもダメです。
かくいう私も以前は、黒板に張り付いて一斉講義型の授業を行っていました。生徒たちの成績は良かったので、一定の学習効果は出ていたとは思うのですが、どんなに頑張っても授業内容を全員に理解させることはできず、授業についていけない生徒が必ず何人か出てきました。私はそれを「勉強しない生徒が悪い」と生徒のせいにしていました。恥ずかしながら、私も以前は生徒を置き去りにして、勝手にしゃべっていた教師の一人だったのです。
ところが、グループ学習を取り入れ、黒板ではなく、生徒の方を向いて授業をするようになると、生徒の顔がよく見えるようになりました。すると「この生徒は、こんな簡単なところでつまっていたのか!」といったことが、手に取るようにわかるようになり、全員が参加する授業にしよう、と考えるようになりました。

――先生が生徒の方を向くことで、生徒を主体とした授業ができるようになったのですね。

岩佐先生:一番大切なのは、生徒を思う意識です。そうした意識のある先生であれば、多少手法がぎくしゃくしても、いい授業になっているはずです。同時に、教材そのものの面白さを先生が感じていて、生徒に伝えたいと思っているかどうか、ということも大切です。
「ただの公式だから暗記すればいい」というのでは、生徒は面白くない。やはりそこには、先生自身の専門性の深さも関わってくるように思います。私はごまかしではなく、大学でも通用する、本物の数学を教えたいと考えています。高校生だからこの程度、というのではなく、全員を大学数学の入り口まで連れていってあげたいと考えているんです。

(取材・文章:井上佐保子)

 

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鈴鹿中学校・高等学校は、三重県鈴鹿市に所在する私立の中高一貫校である。文理共通カリキュラムを導入するなど、文理の枠を超え、実社会での活躍を見据えた教育を行っている。

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