マナビラボ

第13回 マナビをひらく!授業のひみつ

2016.05.18

話しあって問題を解くと
数学が得意科目になる!?

グループ学習で学ぶ数学の授業【前編】

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文理合同クラスで数Ⅲを学ぶ

その教室はとても静かな教室だった。隣席の3、4人が机を寄せ、生徒同士が共に考え、教えあいながら数学の問題を解いている。「この問題どう考えるの?」「この式を使ったら説明できるんじゃないかな」「うちら問題解くの早かったね、すっきりした」「おまえ、よく思いついたなー」生徒同士のやりとりは活発で話し声は絶えず、教室のあちこちから聞こえてくる。しかし、全員が集中して問題に取り組んでいるためか、その声は穏やかで、無駄な私語もなく、なぜか騒がしいと感じられない。世の中に教室中の生徒たちの頭がフル回転している時の音というものがあるのだとしたら、こんな音になるのかもしれない。
取材にお邪魔したのは三重県北部、鈴鹿市にある学校法人鈴鹿享栄学園 鈴鹿中学校・高等学校。私立の中高一貫の進学校で、高校2年生にあたる5年生まで幅広い分野を学ぶ文理共通カリキュラムが特徴で、数学は全員が数Ⅲまで学ぶ。同校では、2007年ごろから生徒一人ひとりが主体的に学ぶ姿勢をはぐくむ教育をめざし、さまざまな科目で生徒が互いに学びあうグループ形式の授業が取り入れられてきた。そのきっかけを作ったのが数学の授業にグループ学習を導入し、高い学力向上効果をあげている数学科教諭の岩佐純巨先生だ。
岩佐先生はグループ学習で全員が理解することを目指しているという。グループ形式で学ぶ数学の授業とは、いったいどのようなものなのだろうか?先生の教室にお邪魔した。

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班の全員が解き終えることがゴール

取材に訪れたのは、2016年2月4日。高校2年生の文理合同クラスの「数Ⅲ」の授業。机の並び方は通常通りの一斉授業型だ。岩佐先生は、チャイムが鳴り終わると同時に「はい、前回やったプリント8の続きをやってください。今から10分、15分の間にできるだけ多くの証明をやってください」と、ほとんど雑談などもなく授業に入る。これは、生徒たちの興味を他にそらすことなく、すぐに問題に集中して取り組んでもらうための工夫だという。
先生の声掛けと同時に、全員が机を動かし始め、3、4人の島を作り、グループ形式の配置になり、各自、プリントの問題に取り組み始めた。授業内容は、「複素数平面」の「共役・絶対値・偏角」の性質を学ぶ、というもの。最初のうちは一人ひとり静かに問題に取り組んでいるが、しばらくすると、すぐにささやくようなひそひそ声で、生徒同士が話し始めた。「これって昨日やっていたあれだよね」「そうそう」「ありがとう」。話はしないが、隣の生徒の解答を覗きこむ生徒もいる。先生は教室内を縦横無尽に歩き回り、生徒が問題を解く様子を眺め、適宜、問題の解き方についてのアドバイスやヒントを与えていく。
かなり高度な内容だが、文理合同クラスにも関わらず、全員が内容を理解している様子で、まったく問題に手がつかない様子の生徒はいない。積極的な生徒は問題を解いてみてわからないところがあると、すぐに隣席の生徒に話しかける。グループ内に、すでに問題を解いた生徒がいれば、その生徒は「こうやってみると解けるよ」「僕はこうしたよ」と、自身のプリントを見せながら丁寧に説明する。同じグループの別の生徒は、そうしたやり取りに聞き耳をたてながら、自分のプリントに書いた答えを確認している。
中には解き方を教えているうちに、分からなくなってきて、3人で議論を重ねているグループも。そんなグループには、岩佐先生がさりげなく近づき、「αとβがどんな複素数なのか見つけないと」「この式で邪魔なのは何だろう?式を観察することが大事だよ」などと、ヒントを出したり、やり方を指示したりしている。ゆっくり淡々と話す岩佐先生の声は穏やかで、教室に落ち着いた雰囲気をもたらしている。
生徒たちが苦戦しはじめると、「ちょっと鉛筆を置いてください」と声をかける。すると、全員がすっと話をやめて、黒板に目を向ける。先生が黒板に式を書いて解説し、考え方や解き方の糸口を示すと、再び生徒たちの鉛筆が動き始める。こうして、少しずつ問題が解ける生徒が増えていく。

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助け合って問題を解く

早々に問題が解けてしまった人には、先生が近づき「同じ班の人に説明してくれた?」「次の応用問題もやってみて」と細かく指示を出す。
中には頭を抱え、完全に鉛筆が止まっている生徒もいる。少し内気そうな生徒で、班の誰かに話しかけることもできずにいるようだ。すると、すでに問題を解き終えた生徒が、プリントを指差し、「この式を当てはめてみるとわかるよ」とさりげなくヒントを出して説明している。特に指示がなくとも、生徒たちは、分からない人にも根気よく教え、班の全員が問題を解き終えることができるまで、協力を惜しまない。
40分を過ぎたところで、先生が前に立って「ほぼ全員ができましたね。では席を戻して前を向いてください」と、声をかけると、全員が机を一斉授業型の席に戻し、先生が問題の解説を始めた。生徒たちは静まり返って話を聞いている。その際も、先生は単に考え方を淡々と説明していくのではなく、少し問題を解かせたら、隣同士で答え合わせをさせるなど、常に理解度を確かめながら進んでいく。
授業も終わりに近づいたところで、少し発展的な問題を出す。「あと3分ですが、問題をじっくり眺めて考えてみてください。正解者には岩佐賞として『熱い抱擁』を差し上げます」。クラス内には笑いが起きたが、その後は静まり返り、全員が問題に取り組み始めた。「わかった人?思いつきでもいいから言ってみて」何人かが手を挙げて答える。「正解です。ここが複素平面の便利なところなんですね。今日の大事なところですからよく復習しておいてくださいね」。ちょうどチャイムが鳴って、授業は終了。何人かの生徒たちは、今やった問題について、話し続けている。「授業が終わってもそのまま問題のことを考え続けてもらえるように」という岩佐先生のこだわりで、終わりの挨拶はしないのだという。活気あふれる静かな教室は、授業が終わった後も続いていた。

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きっかけは「キャリア教育」

岩佐先生がこのようなグループ学習のスタイルで数学の授業を始めたのは10年ほど前、高校に「キャリア教育」の導入が求められている時期のことだった。進路部長としてその検討を行っていた岩佐先生は、多くの高校で行われていた職業体験や工場見学など、学校の授業と離れた形で行われるイベント型の「キャリア教育」に違和感を抱いていた。「普段やっている教科指導の中にキャリア教育を入れることはできないのだろうか」と考え、仲間と研究会を立ち上げるなど、新しい形の「キャリア教育」を模索していたという。
また、日々の教科指導を通して、生徒たちにある変化を感じるようになっていた。塾や先生から丁寧に教えてもらうことが増えたためか、生徒の聞き取り能力が低下し、自ら学ぶ姿勢が感じられなくなっている。どうやったら生徒たちの自主性を育めるのか。
「教科を通してのキャリア教育」と「生徒たちが自ら学ぶ力の低下」、そんな悩みを抱えていたときに出会ったのが、小グループで生徒たちが話し合い、教え合いながら学習を進めていく「協同学習」だった。
「学校で行われるべき『キャリア教育』とは、様々な職業について学び、職業観を醸成することだけではありません。自分を理解し、他者を理解し、自分の伝えたいことを言葉にして伝える、そうした社会で役立つ能力を培うことも大切なキャリア教育。だとすれば、数学の授業を生徒同士、話し合いながら進める『協同学習』で行うことで、論理的思考力や言語力を身につけることができるはず。同時に、生徒たちの自ら学ぶ力も育むことができるのではないか」。そんな期待から数学の授業に「協同学習」を取り入れることを思いついた。

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4人グループで学びあう岩佐先生の授業スタイルは、その後の試行錯誤の中で現在のような形となった。9月に行われた学習調査では、4月から授業を受けはじめた生徒のうちなんと4割が「数学が得意科目である」と答えたという。
生徒たちが互いに話し合い教え合うことで、全員が内容を理解し、かつ学力も向上しているという岩佐先生の授業。そこにはいったいどんな秘密があるのだろうか?

>>後編につづく

(取材・文章:井上佐保子)

 

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鈴鹿中学校・高等学校は、三重県鈴鹿市に所在する私立の中高一貫校である。文理共通カリキュラムを導入するなど、文理の枠を超え、実社会での活躍を見据えた教育を行っている。

  • 撮影

    木村 充

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