マナビラボ

第1回 マナビをひらく!授業のひみつ

2015.12.16

想定を超えた学びの創造
−地域課題の解決と授業をつなぐ−

岐阜県立可児高等学校(以下、可児高校)は、工業地域に所在する公立進学校である。ほぼすべての生徒は大学進学に向けて勉学に取り組んでいる。ところが、多くの生徒が進学を目指すということが、学校を支える地域にとってかえって大きな悩みを生んでいる。進学を機に生徒たちが地元を離れてしまい、就職後も戻らないため、地域の活気が年々失われてしまうという課題である。

こうした地方の進学校特有の課題を受け、可児高校では2013年に、理科(物理)教諭の浦崎太郎先生が中心となって、とある地域連携型のプロジェクトを始めた。高校と地域の連携といっても、地域住民が「高校に力を貸しているだけ」の関係では決してない。可児高校が高校生を地域に送り出し、地域が持つ様々な課題の解決に高校生を深く関わらせることで、高校性たちの中に地域課題に対する「当事者意識」を醸成することを目指す。地域の課題解決に携わる経験を通して、高校を卒業して進学した後、より実践的に地域の課題解決に資する熱意と専門性を持った人材に成長して、地域に帰ってくることを期待している。若年層が地域を離れることによって様々な課題を抱えている地域住民や企業は、次世代の担い手の供給という貴重なリターンを、「地域課題解決型キャリア教育(エンリッチ・プロジェクト)」と呼ばれるこのプロジェクトから得る。さらに、高校生たちにとっても、同プロジェクトへの参加は就職先の安定した確保に繋がりやすい。高校生の学びと成長の機会をつくりながら、地域全体を再生することにもつながるプロジェクトなのである。

2013年に可児市議会の協力を得て立ち上げた本プロジェクトは、その後、学校からも市議会からも独立した独自の組織として立ち上げた「NPO縁塾」を核としながら活動を展開している。地域のさまざまな大人たちの積極的な参加と支援を得ながら、地域課題解決型学習を通じた学力向上・キャリア保障・地域再生を目指す。

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私たちが可児高校へ取材に向かったのは2015年10月9日。この日に議論する地域課題のテーマは、「どうしたら日本人と日本に住んでいる外国人との交流が進み、多様な文化を持つ人たちが相互理解を深めることができるのか」であった。
大きな模造紙とペンが置かれた机を囲んで、高校生と市役所職員、教員をはじめとして、可児市の地域の住民が着席する。まずは可児市多文化共生センター・フレビアの運営を担うNPO法人の事務局長・各務眞弓さんから、外国人労働者が多く住む可児市における多文化共生の現状についての講義があり、それを土台に話し合いを行う。模造紙には他の人の発言をまとめたり、自分の考えを書いたり、自由に使用してよいことになっていて、次々とアイディアが書き足されていく様子はさながらTwitterのようである。

ついで、より多くの視点が得られるようにする仕組みとして、「席替え」が行われる。高校生と模造紙はそのままに、大人たちが別のグループに移動するのである。新しいグループがつくられると、前のグループの大人たちと話したことを高校生がまとめながら、新しい大人に解説する。そこから、新たな議論が展開される。その際、高校生への指示も出されぬままに、高校生たちはごく自然に解説を始め、その後の議論もスムーズに行われた。

最後に、もう一度席を移動し、大人は始めのグループに戻り、さらなる議論を行う。こうして、徹底して議論を深める仕組みがデザインされている。

グループで議論している中では、日本人と外国人が交流できるようなイベントを開催する、という案が多く語られた。しかし、その様子を見て歩いていた各務さんが一言。「聞こえてくることに、それもうやってるんだけどな、というのが多いですね」。高校生であろうと容赦なく、「創造性」や「実現可能性」を要求する。

すると、高校生のやる気に火がつき、自然と議論が活発化する。高校生である自分たちが、地域と多様な文化を持つ人たちをつなげるために提供できるリソースは何か? 一気に議論の焦点が絞られる。「他の人たちになにをやってもらうか」という案作りから、「自分たちをどう活かせば課題解決できるか」という案への転換だ。

最後には、各グループの案を共有する。そこで出された提案は、安易なイベントの開催を超えた多様なものであった。会の最後には、自分たちの案の実現に向けて各務さんに直談判する生徒の姿さえあった。

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こうした取り組みの中心にいる浦崎先生。その普段の物理の授業では、生徒はどのように学んでいるのだろうか。実は浦崎先生、2013年からアクティブ・ラーニング型の授業も積極的に実践してきた。「アクティブ・ラーニング型授業と地域課題解決型学習とは根っこが一緒なんです」。その根っことは、「探究能力」だという。生徒の直面する課題を、協働してどのように解決するか。授業の中で学ぶ知識が人類の歴史の中ではじめて発見されたとき、そこにはどのような課題があり、当時の人はどのようなプロセスでその課題の解決に至ったのか。こうした視点を取り入れて授業を行うと、両者は「探究能力」を伸ばすという点で合致する。

取材に訪れたこの日の物理の授業の内容は、「光電効果」。高校物理の中でも難しい単元だが、「光電効果が発見された時、それまでの常識では説明がつかなかった。一見矛盾する課題が出てきたときに当時の物理学者がどのように課題を乗り越えようとしたか。知識だけではなく、理論的な予測と実験結果が矛盾したという課題を解決したそのプロセスを学んで欲しい」と浦崎先生は生徒たちに話す。

授業開始からすぐ、光電効果を利用したカミオカンデの光電子増倍管の実物を見せながら、最先端の研究と内容とのつながりを示す。その上で、スライドを用いてグループワークのための事前説明を10分間。生徒は冒頭から集中して先生の話に耳を傾ける。その後、授業開始後10分の時点で、課題が出される。課題は、説明された知識を用いて実験結果を予測するというものである。生徒たちはグループで課題に取り組む。うまく課題に取り組めていないグループには先生が追加で説明し、他のグループは教科書の記述や配布資料を見ながら予測していく。「波動っていう前提でやってみて、矛盾したら前提を変えればいい」、「たぶん結果的には違うんだろう」、など、思い思いに仮説を立てながら課題に答えようとしていく。

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20分ほどすると、各グループが記入したワークシートを黒板に掲示して、先生が解説をしながら光を「粒子」だとする考え方と「波動」だとする考え方の二つに分ける。その解説を聞きながら、「波動だとこうなる、粒子だとこうなる、ってことだと思う」と、先生の言葉から引き取って生徒たちは小声で教えあって考えを深めている。

浦崎先生が粒子と波動の特徴を解説した上で実験結果を示し、さらに進んで、光電効果の持つべき性質に関する説明を行ったとき、生徒は怪訝な表情を示した。「質量もないのにエネルギーはあるってこと?」、「粒子なのに質量ないとかおかしいよね」、「でも粒子なら絶対なにかしらあるでしょ。物体として存在するなら絶対に質量ある」、「じゃあブツじゃないんだよ」。再度グループで疑問をぶつけ合うその様子を見て、先生は「今日の本題からは外れるけど、しかし、かなり本質的な話をしてるんだよね」と語った。

授業後、先生は「あんなに(生徒たちが)考えるとは思ってなかった」とぽつりともらした。課題について考え、議論しあうことで、教師の想定を超えるするどい考えに至る生徒も少なくない。地域課題解決型学習と授業とが同じ目的を持つとき、相乗作用をもたらすことはいうまでもない。

現在、可児高校の取り組みの中心にいる浦崎先生は、中央教育審議会の学校地域協働部会の専門委員に就任した。可児高校のキャリア教育を共に支えている可児市議会は、第10回マニフェスト大賞を受賞した。受賞理由では、「高校生は、地域の良さを知るとともに、議会・議員を知る。このことで、高校生は地域学習を踏まえて政策提言を行っている」ことも評価されている(第10回マニフェスト審査委員講評)。地域課題と授業内容に対して、ともに「当事者」となり「探究」することで学びがより深まっている。

 

>>後編はこちら

 

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岐阜県立可児高等学校は、可児市に所在する1980年創立の普通科公立高等学校。県内でも有数の進学校として、「自ら学ぶ」「自ら治む」「自ら鍛う」の精神を掲げ、「清新はつらつ」を目標に教育活動を行っている。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    木村 充

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